異端者と逆行せし者達の協力

「・・・さて、陛下。お騒がせ致しました」
「っ・・・あ、あぁ・・・」
そしてモースがいなくなったのを見届け丁寧に振り返り声を上げる公爵にインゴベルトは自分もああなると思っていただけに、若干動揺を隠しきれず精一杯に威厳を保っているように答える。
「・・・クリムゾンよ、わしは捕らえんのか?」
だがやはり自身の末路が不安なのか、恐る恐るインゴベルトは聞きたくないことを意を決して口にする。
「何故でしょうか?私はあくまで預言を持ってキムラスカを我が物顔とせん奸物を排除したまでのこと・・・インゴベルト陛下にそのようなことをせねばならない道理はございませぬ」
「・・・そうか」
「ですが、我々の行動を不満に思われて行動を起こされでもすれば面倒ですので然るべき処置は取らせていただきます」
「え・・・?」
その声にそんなことやるはずないでしょうとまた丁寧に返されインゴベルトは内心安心したが、公爵からまだ物騒にしか聞こえない続きがあると聞き呆けた声を上げる。
「まず陛下の周りを固める兵士を全て私の手の者と致します。その上でこれ以降は内政を含め政に関する権限は内密にではありますが、私にお譲りいただきましょう」
「!そっ、それは・・・そなた、このキムラスカを乗っ取ろうと言うのか!?」
「これは人聞きが悪い・・・私はあくまで後々を上手く進めさせるためにあえてその役割を背負おう、と言うだけの事です」
その中身は単刀直入に言えばクーデター・・・それを非難めかせてインゴベルトが叫べば、既に罵りを覚悟済みの公爵は冷笑を浮かべて平然と返す。
「とは言え私も理由も言わず陛下のそしりを受け続けることが出来るほど厚顔ではありません。確かな理由があってこう私は申し上げているのです」
「・・・理由・・・?」
「はい。私は確かに内密にと言う姿勢ではありましたがダアトのラムザ及び導師、マルクトのピオニー陛下と話を通して参りました。それで失礼を承知で申し上げますがラムザならばともかく、導師とピオニー陛下はインゴベルト陛下を一朝一夕に信用はいただけないのはお分かりでしょう?自分達の知らぬ預言を持って戦争に踏み切ろうとした陛下の事を」
「う・・・それ、は否定が、出来ん・・・」
「私もそうお考えになると思いそう申し上げたのです・・・大詠師をマルクトにお送りし、導師も表立ってかの存在の影響を受けずに動くと決めた今のキムラスカに求められるのは両国とのずれることない同調の姿勢。それはこの件に関して全面的な権限を私が陛下からお預かりしているからこそ、そう見せることで両国から信用を初めて得られた上で見せる事が出来るのです」
「・・・成程・・・」
そこから堂々とそうすることは反意ではないからと語る公爵に、ちゃんとした理詰めであったことから不信感を見せていたインゴベルトが終いには納得して頷く・・・だがそこで自身が両国に信頼されてないことを流してしまったインゴベルトに、ラムザ達の目が呆れた物に変わっていたことを気付いていなかった。
「お分かりいただけましたね、陛下。あくまでも私に秘密裏に権限を譲るのはその為なのです。無論私は陛下を蔑ろにする気もございませんし、時期を見て私もその権限を返還致しますのでこの処置を了承していただけますでしょうか?」
「・・・・・・うむ、ならばいいだろう。マルクトとダアトとの件も含め、しばらくそなたにキムラスカの全権限を預けよう」
そして止めと言わんばかりに譲歩も混ぜた上で穏やかな口調で確認を取る公爵に少しの間を取り、インゴベルトはならばと傍目に強がりと見える見栄の力強さで頷いた・・・自身に王の権限の奉還がされる確証がない未来に。






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