焔の再度の来訪に海は色めきたち出す

「・・・息子達の中じゃエースがおれを一番海賊王にさせたかったと聞いた。それはおれが海賊王になる気がなかったのを言わなかったのは悪かったとは思うが、どっちにしろエースの目標を失わせちまったのには変わりねェ・・・それで改めておれはどうするかをエースに聞いたが、今はティーチを倒す事以外頭にねェようだった・・・それは確かに元々サッチの為にティーチを追っていたエースの目標になるだろう。だがそれが終わりゃアイツの目標が失われちまう・・・だからおれはエースに踏ん切りをつけさせてやりてェんだ。これから先の海で自分自身の為に歩く道を見つける為の踏ん切りをな」
「・・・成程な」
・・・エースは仲間だったり身内だったりを見捨てられない性質を持つが、裏を返せばそれは良くも悪くも身内から離れられない性質でもある。それは物理的な意味より精神的な意味合いが強いが、だからこそ白ひげの持つ懸念は白ひげ海賊団を想うあまりにその未来をエース自身で潰す可能性があることだった。
「・・・だからエースにはこれから先どうするかを自分自身で考えてもらいてェ。ルークと一緒に行った後でマルコ達をまとめあげるかその下につくなんて結論か、また海賊団を新たに作るか他の海賊の下につくか、はたまた海賊を辞めるか・・・今一度自分を見つめ直して、それで出した結論ならおれは何も言う気はねェ」
「だからエースをルーク君に、か・・・フッ。私はそれで構わないが、お前ともあろう者が似合わない節介の焼き方だな。白ひげ」
「・・・フン、おれも心臓1つのただの人間。持って10年か20年がせいぜいいいところのジジイだが、せめてオヤジらしく成長したガキの巣立ちを見てェんだ。だがもう白ひげ海賊団は解散した・・・今はまだティーチがいるからいいかもしれねェがもう海賊を辞めたおれの名の元にいつまでも集まっていていい訳がねェ。それはエースだけじゃねェ、マルコ達も同じようにな・・・だからルークを助けると同時にエースに自立してもらいてェ、それだけの事だ」
・・・だから白ひげはオヤジとして、父親としてエースに残せる内に残したかったのだ。自立を促した上でそれでも更に強い想いで仲間と共に歩む道を選ぶか、全く別の新たな道を選ぶかを考える時間と1人の人間として成長を促す時間を。
そんな想いを自身はけして長い間生きられないとの言葉も付け足し向けてきた事に、レイリーは目を閉じながら満ち足りた笑みを浮かべる。
「フフ・・・白ひげ、今のお前は本当にジジイの顔をしているな」
「ぬかせ。ジジイの顔ならテメェも似たようなもんだろうが」
「否定はしない。私もとうの昔に引退した身だからな。だがジジイと自分の事を認めるからこそ楽しみなのだ。若い世代の成長という物がな。前なら自身が老けたと苛立っていただろうが、今はそれが心地よくもある。今なら思えるよ、歳を取ってよかったと」
「・・・あァ、今ならおれも思える。歳を取るのも悪くねェ。その分だけ息子達の成長を見れるんだからな」
そこから穏やかにレイリーは白ひげをジジイ呼ばわりし、言われた当の本人はにやつきながらそう機嫌を損ねずお前もだろうと返すがレイリーはそれすらも受け止めた上で歳を取る楽しみを説き、白ひげもすんなり同意する。その姿にレイリーは持っていた酒瓶を白ひげに向ける。
「・・・では白ひげ、ジジイはジジイ同士でこれからの時代をゆっくり見ていこうではないか。若い世代の成長をな」
「あァ・・・だが1つ言わせろ。もうおれは‘白ひげ’の看板は下ろしているから、未だその名で呼ばれ続けるのはいい気がしねェ・・・別に他のハナタレどもは気にしねェがお前はこれからは名前で呼べ、いいな?」
「あァ・・・ではニューゲート」
「おう、レイリー。息子達の作る新時代の来訪、そしてルークの無事を願い・・・」



「「乾杯」」



・・・レイリーから持ちかけられた言葉のない乾杯の合図に白ひげは対等であろうと久しく呼ばれない本名で呼べと言い、レイリーがニューゲートとその名を呼び改めて酒瓶を向けると白ひげ・・・いやニューゲートは静かだが確かに力強い声を持って口上を述べ上げ、乾杯とレイリーとともに呟き杯と酒瓶を軽くぶつけた。



・・・この二人の二人きりでの飲みあい。この世界においてこれだけ様々な意味を持つ光景は他にはないだろう。だが二人にとってはなんてことのない、ただの旧知の仲の人間とのサシでの飲みあいである。

そんな二人の飲みあいは夜を通し、朝まで余計な言葉は交わされずにずっと行われた・・・









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