焔の再度の来訪に海は色めきたち出す

「・・・しかし驚いたよ、まさか白ひげが海賊を辞めるとは思わなかった」
「・・・色々思うところがあったからな」
・・・しばし無言の間があり、切り出したのはレイリー。そんなレイリーに白ひげはその訳を語りだす。
「・・・おれは息子達がおれを海賊王にする気でいることを知っていたが、おれはラフテルに行き‘ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)’を手にする気はなかった」
「ほう、何故かね?」
「・・・おれが海賊をしていたのは家族が欲しかったからだ。財宝だとか名誉だとかはおれにとっちゃどうでもよかった。それが‘ひとつなぎの大秘宝’でもだ」
「成程」
「だがおれはそんな事を息子達に言わず、新世界を思うままに旅をしてきた。だが今考えてみりゃそれはおれのわがままに過ぎなかった。わけェやつらの気持ちを無視して1人自己満足に浸ってたんだからな・・・」
「しかしそれでも‘白ひげ’という存在に救われオヤジとお前を慕う者は何人もいる・・・そう言った人間がいることを忘れてはいないのだろう?」
「忘れちゃいねェさ・・・ただ膨れ上がっちまった‘白ひげ’って看板を下ろす時期を見失っていたから、わけェやつらに後を託す事もせずに長い間海に居座っちまった。だからおれはこれから先の時代を望む意味でも海賊を辞める事にした・・・今更悔いはねェ」
「・・・そうか」
・・・20年以上前は何度も殺しあった間柄とは言え、今も会ったら殺しあう程の恨みなどない。前は立場の違いがあったからぶつかり合うこともあったが、今は互いに海賊を辞めている以上争う理由も白ひげとレイリーにはなかった。むしろ二人を繋げる‘海賊王ゴール・D・ロジャー’の事を互いに他の者より密接に知っている分、友情に近い物が二人にはあった。
現に誰にも話さなかった自身の心情を白ひげはあっさり明かしたし、レイリーも何も異論を向ける事はない。これは互いをよく理解している証拠だ。
「・・・だがそれもマリンフォードでルークが来なかったら、おれは海軍と1人戦いこうやって生きていることはなかっただろうな」
「・・・ルーク君、か」
そこで宴の場で騒ぎ疲れて地面に大の字で寝ているルークに二人は視線を向けるが、その瞳にはルークには見せていない慈しみの想いが込められていた。
「ルークの言葉には力があった。そこらのハナタレにゃ絶対に言えねェ実感がこもった力がな・・・だがさっき会ってルークの事を聞き、納得したと同時におれは耳を疑った・・・あんな姿で7才程度のガキだというんだからな」
「あァ、ルーク君は今までの旅で全てを知った上で乗り越えて来たからこそああやって明るくいられるのだろうが・・・正直、不憫でならない。生まれてきた時から本物の代わりとして生かされ、その事を知らないまま操られ殺されそうになる・・・結果生き残りこそしたものの、ルーク君は大きな罪を背負ってしまった。望まないにも関わらずだ。その重みは私にも想像がつかないが、だからこそその言葉は何よりも重い」
「あァ・・・だが本来なら7才のガキが背負うようなもんじゃねェ、そんな重荷はな・・・」
「・・・だからこそ、ルーク君には生き延びてもらいたいものだな。自分の世界に帰る日が来て、穏やかにその後を過ごせるようになるまでは・・・」
「あァ・・・」
・・・今まで確固とした強さを持ちながらも反面、過去に傷を持つ人間は二人は何人も見てきた。しかしそれでもルークのその生い立ちは二人から見ても異質であり、過酷極まりない物だった。しかも未だにルークは旅を終えられてはいない・・・
そのことに白ひげは自分も息子達も助けられた事もありルークを放っておく事など出来るはずもなく、レイリーも偶然とは言えルフィにシャンクスとも少なからず関わりのあるルークを放っておく事は出来なかった。だからこそ二人は何も言わず、ルークを受け入れることを決めたのだ。







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