奈落はいつも足元に

そのティアの真っ青な表情を見て、こいつはもういいだろうと他を見渡す。ジェイドは一応嵌められたと理解した事から、攻めても大して意味はない。ガイは理解してるかどうかは別にしても、発言力の薄い使用人風情をこれ以上傷付けても意味はない。ならばとルークが目にしたのは・・・
「ナタリア、何故陛下はお前にアクゼリュスに行くなと言ったか、今ならわかるだろう。その本当の意味が」
いきなり自分に振られた話題に、預言の内容に未だ憔悴しているナタリアはビクッと反応するだけで返事を返せない。
「けど、今更理解したところでもう遅い。ナタリアは既にアクゼリュス行きの同行者として認められてしまってるんだからな」
「え・・・?それってどういうこと?」
ルークの言葉にアニスが反応する。アニスの言いたいことは・・・
「おかしいと思わなかったのか?あれほどナタリアは行くなと念を押されたのにケセドニアやカイツールで誰もナタリア王女を探しにこようとした素振りすら見受けられない。和平の後の議会じゃあ自らも行くと言って陛下に反発する勢いで意志を表明している。明らかに俺達について来てるとわかるのに、何故誰ひとりナタリアを止めに来なかったと思う?」
「・・・どういう事なんです?」
悲痛な顔をしてイオンが確認を取ろうとする。もうこれ以上嫌な事は聞きたくないといった感じが解りやすく滲み出ている。
「確認を取った訳じゃないが、陛下はモースにこうでも告げられたんだろう」



「ここで王女を連れ帰るよりも、後継ぎ候補二人が死ねば大義名分は十分成り立つ。だから王女を引き止めるよりも預言のためにこのまま死んでいただこう、という感じの事をな」



「そんな・・・!!」
イオンが言葉を失い驚く中、肝心のナタリアはルークの言葉を聞いた瞬間腰を抜かしたのかその場にへたりこんでガクガクと寒そうに体を抱きながら震え出した。
「そんな・・・そんなはずはありません・・・」
ナタリアから聞こえて来たのは信じたくないという現れからくる、逃避の自己暗示の言葉。
「何処に奈落への片道切符を娘に嬉々としてやる馬鹿がいる。だからインゴベルトはお前を止めたんだ。しかしお前は散々駄々っ子以下の言葉を繰り返し、揚げ句の果てには王の意向に歯向かってまでルークについて来た。預言の事があるとはいえ、我を通しすぎたツケと罰だこれは」
C.C.はこれでもかと言わんばかりに辛辣な言葉をナタリアに浴びせる。しかしナタリアのやったことは立派なこととは間違っても言えない。同情の余地など王女という身分からすれば期待してはいけないし、されればされたで尚キムラスカ王女のブランドの地位が下がるだけ。
「国に帰ったところでお前はもう王女と名乗りをあげることは許されんだろう、これだけの事実を目の前にすればわかるはずだお前にも・・・自爆もいいところだ、お前は。そしてそれ以上に救いがない」
もしキムラスカにこのまま帰ったとしても預言の達成には邪魔な人物として見られて有無を言わさず殺されるか、運よく死を免れたとしても王女という地位は王の意向に背いた者として剥奪されて政治に関わることはまず許される事はなくなる。どちらの結果にせよ、ナタリアはもう王女ではないのだ。
「イヤァァァァァァ!」
突き付けられた現実にようやく頭で理解出来たのだろう、自らが正義と信じて疑わなかった行動が自らの破滅を招いてしてしまったと気付いたナタリアはただ涙を盛大に流して叫ぶばかりであった。





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