最後の陸の黒船の剣の使い手と天剣の使い手

・・・そうしてしばらくの時間が過ぎた。






「・・・どうだ、幻想郷に来てからしばらくの時間が過ぎたが?」
「そうですね・・・正直な所として、気が楽になった気がします。人里の人は僕の事を見ても何も言いませんし、逆に僕の事を知っているという人が近くにいるっていうのがこれだけ気が楽になるものなんだなって感じますよ」
「・・・そうか」
・・・夜という時間になり二人で対面式で夕食を取る中、比古が質問を投げ掛けると笑顔を浮かべながらいいものと返す様子に一息入れる。
「・・・元の場所に帰ろうと思わんのか?慧音に頼むか博麗神社に行くかで八雲紫とやらに来て帰してもらうように伝言を頼めば、一縷の望みとして帰れないこともないと思うが・・・」
「・・・それに関してはしばらく考えてみたんですが、もう無理に帰る事は考えずにこの幻想郷に骨を埋めようと思いました」
「・・・いいのか、剣心に会わなくて?」
それで比古が帰るかどうかを考えたのかを聞くのだが、既に幻想郷に残る考えは固まってるとの返しに再度確認を向ける。
「・・・この幻想郷で比古さんからの話を受けて考えてたんです。僕は元の場所にそこまでして戻るべきなのかに、もし戻ったとして・・・僕は緋村さんに会った後、どこに行くべきなんだろうと。そう考えた時、僕が行くべき所に行きたい所という場所が思い浮かばなかったんです」
「・・・剣心の元に、という選択肢はなかったのか?」
「確かに緋村さんなら受け入れてくれるかもしれないとは思いました。けれど前にも話はしましたが僕は志々雄さんの一派にいたことから監視をされていて、戻ったとしたなら緋村さん達に色々とご迷惑をかけるのは目に見えていますし・・・何よりそう出来たとしても、そうしたいという気持ちにならなかったんですよ」
宗次郎はその確認に自分の中にある考えをまとめるように話していくのだが、剣心の元に行く気にはならなかったと首を横に振る。
「緋村さんが悪いという訳じゃないんです。ただなんというか、緋村さんやその近くで暮らすという気持ちになれないだけなんです。例え元の所に戻れて会えたとしても、緋村さん達と共に暮らすという考えには・・・」
「・・・それは俺の知る剣心の顛末を聞いたのもあってか?」
「そういった部分もないとは言えませんけど、どちらかと言うと緋村さん達の近くに僕がいる気になれないというだけの話なんです・・・志々雄さんとの出会いについては前に比古さんにはお話ししましたが、僕は妾の子としてろくでもない目に合っていました。そこに志々雄さんが来なければ僕はいずれ使い潰されるか何らかの事故を装われるかだったりと、ろくでもない形で殺されていただろうことは想像出来ましたが・・・それでだからと言って緋村さんの元のようにそういった所とは真逆の環境で暮らすことも、想像出来ないんですよね・・・」
「そうか・・・」
そのまま宗次郎は続けてどう考えていったのかを語っていくのだが、過去の事を引き合いに出したその中身にさしもの比古もそれ以上は追求せずに納得するに留める。






・・・宗次郎が何故志々雄と共にいるようになったのかについては一緒に生活する傍らで比古は聞くことになったのだが、十にも満たないくらいのガキが生きていくにはあまりにも過酷な環境であると共に、宗次郎が壊れるのも無理はないという結論をすぐに出さざるを得なかった。そんな環境にいてまともな子どものままいられるはずがないと。

その上で志々雄と出会わなければ宗次郎はいずれ死んでいただろうことも確実と見た上で、志々雄でなければ宗次郎を助けられなかっただろうことも確実だったと見た。もし何らかの運命の歯車のズレから剣心が志々雄の代わりに宗次郎の元に行ったとしても、その時の剣心は政府から追われてはいなくても宗次郎をその家から連れ出す事を決断したかと言われれば、様々な迷いを抱えていた状態ではまず有り得ないだろうと。

ただそこについては過ぎたことだから仕方無いと言えるが、そういった宗次郎の穏やかに過ごすことが出来ないという考えに関しては、その家にいたからこそ負った心の傷からだというのが比古にも推測出来たのだ。劣悪な環境にいたからこそ上等な環境があっても、それを受け入れるだけの気持ちにはもうなれないのだと。









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