最後の陸の黒船の剣の使い手と天剣の使い手

・・・そうしてまた陶芸家としての道を歩んでいく比古は、人里の中でも評判の陶器を作る人物として一目を置かれるようになった。この辺りは前世での経験というか、作品が評価される程の才能があったことを比古自身よく知っていたからである。

それでそうして自分が稼げるようになった比古はそれまで世話になった分と慧音に金だったり酒などを度々提供していくのだが、この行動に関しては気にしなくていいのにと慧音は苦笑いをしながらも受け入れていった。これは比古が慧音に惚れたからという訳ではなく、意外と義理堅い比古からしてみれば何年も自分の面倒を見てくれた分・・・そして自分の事を黙ってくれたことへの借りを返すためだ。

これは何故慧音が比古の事を黙っていたのかと言えば、幻想入りした前世がある子どもの体に退行した剣術使いという存在だと明らかになるのは、色々な波紋が起きかねないと考えての事だ。特に死んだ筈なのに子どもの体に退行したなど知られたなら、八雲紫に四季映姫と言った面々がどう言った反応を起こすか分からず、最悪比古の事を殺しにかかる可能性もないとは言えないと。

故に比古の事は外の世界から幻想入りしてきた親のいない子どもと言った設定を慧音は練って自分の元で暮らせるようにしたのだが、そこまでしてくれたからこそ比古も慧音に借りを返そうと動いているのだ。人付き合いが嫌いということを考慮はしていないにしても、そうしてくれたことや気を使ってくれたことには。

ただそうして慧音以外が比古の事実についてを知らないかと言えば、そうではない。実はもう一人いたのである。紫ではなく比古の事実を知る者は・・・






「・・・おや珍しいね清十郎、あんたが物憂げに酒を飲むなんて」
「・・・何の用だ、萃香。酒の無心ならテメェのその瓢箪の酒で我慢しろ。お前に酒をやったらたちまちに俺の酒が無くなるんだからな」
・・・そんな風になっているといきなり戸を閉めていて他には誰もいなかった筈の比古の前に霧が集まるように何かが集まったかと思うと、次の瞬間には頭の両側に角の生えた少女がニヤニヤしながら現れ、比古はその人物を萃香と呼びつつ悪態をつくようにしながらまた酒をあおる。
「いつもの酒の相手を頼みに来ただけさ。宴会とか騒いで飲むのも好きだが、静かにちょこちょこと飲みたい時もあるからそういう時はあんたの元に限る・・・ついでにお前が私とヤってくれるんなら最高なんだけどね」
「してやるのは酒の相手までだ。お前との殺しあいなんぞやってられるか」
「つれないねぇ・・・まぁいいさ。酒の相手をしてもらいに来ただけだしね」
萃香はそんな比古に少女にしては色めかしい艷笑を向け誘うような言葉を放つが、付き合いからそれが殺しあいだと知っている比古がにべもなく拒否する様子に大して気にした様子もなく、自身の持つ瓢箪を口元に運んで座り込む。






・・・今比古の元に現れたのは鬼であり、その鬼の中でも四天王の名に数えられる程の実力者である伊吹萃香だ。だがそんな実力者である彼女が何故比古の元に現れたのかと言えば、暇潰しにと自身の能力を使って人里の中を見ていた時に比古の剣術訓練の姿を見たことからである。









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