最後の陸の黒船の剣の使い手と天剣の使い手

・・・幕末と明治の歴史の影に隠れる形で戦ってきた男達がいた。そしてその男達は歴史の影から出ることもないまま、姿を消していく事になったのだが・・・その中で二人ほど、幻想郷に入った・・・


















「・・・ふぅ・・・」
・・・夜の帳が降りた人里の中にある小屋の中にて、白を基調にした外套を身に付け座布団に腰をかけた男が猪口を口につけ酒を飲むと一息ついたというように声を漏らす。
「・・・歳を取ると時間の流れが早いとはよく言うが、こうして二度目の生を謳歌してみればより強く感じるな・・・人として大人と呼べるような年齢になるまでなど、長いようで短いと・・・」
そうして男は一人漏らしていく。意味深でいて普通では有り得ないというようなことを。






・・・男には前世があった。本名はまた別にあるが、ある剣術を継承した者が代々師の名に身に付けていた外套をもらうという流派において、その名と外套をもらい・・・最後の継承者となったという前世が。そしてその名は何かと言えば比古清十郎というものであった。

そんな比古は自身の最期を悟りながら寝床にてゆっくりと目を閉じる形で死を迎えた・・・のだが、気付けば比古は幻想郷の人里にて継承者の外套にくるまれる形で体が小さくなった状態で目が覚めたのだ。

そんな状況に始めは混乱した比古だが人里で教師として動いていると同時に守護者という見方をされている慧音に見付かった為、詳しく話を聞いていくと・・・幻想入りの事を聞かされた上で、何らかの理由があったかは知らないが生まれ変わったか若返ってしまったのではないかという話だった。

それらを聞いた比古は幻想入りしたことに関しては朧気ながらもこうではないかという推測は出来た・・・自分の使っていた剣の流派を自分で最後にしたこともだが、時が経つにつれてその流派の事を知る者も少なくなっていったことから忘れ去られていき・・・自分という最後の継承者及び、継承者の象徴でもあった外套が幻想入りしたのではないかと。そうでなければもう誰にも託すつもりは無かった上に、他に使う者もいないだろうからと金属部分を外した上で自身の遺体と共に燃やすように頼んだ外套が元の形となって存在するはずがないと。

そしてそれらの推測を聞いた慧音は納得出来ると共に、一体どんな前世があったのかと比古に聞いたのだが、それらに関しては話すのが面倒だからという考えの元でいずれ話す時があれば話すと言った。元々比古の使う剣術はある程度知識のある者なら知っていてもおかしくないものだったが、それらをひけらかすような事は自分からはあまりしたくなかったが為に。

そんな比古に仕方無いとしつつも慧音は話をしていった上である程度成長するまでは自分の元で暮らしても構わないから、この人里で暮らせばいいと言った・・・まぁ最初こそは比古はうざったい人付き合いなど嫌だと自分が年齢的に老人になったのもあって拒否したが、人里以外に人が安心して暮らせる場所など無いことやその小さな体でどう暮らすのかに加えて、人里でのルールだったり幻想郷の歴史の把握の為にもしばらく自分の所にいた方がいい・・・といった強引ながらも比古も無視出来ない話の中身に、仕方無いと頷くしかなかった。特に人里以外で安心して暮らせる場所がない事や何かを買うための拠点がないという点を考えれば、ここで慧音の誘いを突っぱねるようなことをしたなら後々の生活に響きかねないと見てだ。

ただそれでしばらくは大人しく慧音の元で生活をしていた比古であったが、肉体も出来てきた上で前世で使っていた剣術を再び外套を付けて存分に振るえるとなった頃くらいにはその元を出て、表向きの顔として金を稼ぐためになった陶芸家に再びなって茶碗やら何やらを作る生活に入ったのだ。人付き合いは以前に比べてどうしても増えてしまうが、それでも窯で火を扱う特性上子どもはあまり近付かないように人里でも外側に小屋は作られている上、大人がそう言って止めてくれるだけまだマシだと。









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