神に最も近い男と神のいたずらで生まれ残った男

「・・・悩むか。結構な事だ」
「・・・結構な事、だと?」
そんな時にアベルが口にした言葉に、ゼロは若干ピリつかせた空気を滲ませる。
「苛立つな。俺が言いたいのは迷えるということは考えることが出来ているだけいいということだ」
「・・・どういうことだ?」
「お前と状況は違うし望まれて生まれていないどころか、神のイタズラとすら言えるような有り得ない存在として俺は生まれたんだよ。善に染まらない悪でしかない存在としてな・・・」
アベルもゼロがそうなる理由を分かるというように言いつつ、どういうことかを話始める。自分がいかにして生まれたのかに、どのような末路を経て今ここにいるのかを・・・


















「・・・そうして俺は今ここにシャカといるという訳だ。自分自身と向かい合い、対峙していく形でな」
「・・・そう、なのか・・・」
・・・それでアベルが全てを話終わる頃には、ゼロは先程までの苛立ちなど完全に消え去るばかりかむしろ戸惑いを大きくする以外になかった。まさかアベルがそんな生まれに生涯を送ってきたなどとゼロは想像だに出来ていなかった為に。
「・・・悪でしかなかった俺だが、最期の時になってカインの元から離れて死ぬとなってこれでいいと思ったのと共に、後悔を抱いたものだ。もっと俺が変わればカインも楽になったのではないかと、それまでに全く思わなかった考えを持つ形でな・・・最初こそはその事に対して戸惑うと共にこれでいいのかと以前と今の自分のあまりの違いにどうするべきかと迷っていたが、それでも迷えるということは選択肢が増えたという証拠ではないかと考えられるようになったと思えるようになったんだ。以前の悪として迷うことのなかった自分より出来ることが増えたのだとな」
「・・・そんな考え方が・・・」
その上でアベルが語っていく迷うことの肯定とも取れる言葉に、衝撃を受けつつもゼロは声を漏らしていく。自身にはなかった考え方だと。
「だが選択肢が多いことに迷うというのはある意味当然だ。何も知らぬ幼子なら自分が失敗する事を恐れぬどころか失敗を失敗したとすら思わないことすらあるかもしれないが、生きて在り続ける事になればどれが成功でどれが失敗かなどというのは自ずと学んでいくことになる上で失敗を避けたいと思うようになるもの・・・だが迷えて考えられる時間があるということは、少なくともそれはまだ選択することを強いられるような状況には無いということだ。そしてお前が悩んでいるのは自身の出生やらも含めた全てとどう折り合いをつけるのかもだが、出来るだけ早く結論を出したいという焦りもあるからではないのか?自分がまた今の自分ではなくなるのではないかという恐れから早く迷いを振り切りたいという想いからだ」
「っ・・・確かに言われてみれば、その通りだ・・・そうした迷いを早く振り切り暴走しないようにしたいという想いから、俺は早くにどうしたいのかを決めたいと思っている・・・」
「だがそう言いながらも迷っていることを良くないと思っているのだろうが、発想を変えてみるならそうして迷えていることは今のお前は少なくとも暴走もしていない上にお前は誰かに操られてもいないということだ・・・言われてすぐにはいそうですかと納得など出来るかは知らんが、結論を出したいと思いつつも悩めることはそうはならん時間なのだと考えれば少しは気が休まると俺は思うぞ」
「・・・確かにあの時の俺は迷うことなく衝動に取りつかれたままに動いていた・・・しかし悩んでいる時はそうはならないと思えば、確かにまだマシと言えるだろうな・・・」
更にアベルが深く話を掘り下げていったその中身に、ゼロも先までの重い空気が大分和らいだような表情を浮かべていた。悩めるということがこれほど救いになるのかというように。









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