焔に触れ亡霊の姫は変わりゆく

「・・・妖夢、いるのでしょう?」
「っ!」
・・・しかし部屋の外の襖の向こうから見付からないように監視をしようとしていた矢先、幽々子の声が向けられてきた事にたまらず妖夢は驚きに漏れそうになった声を押し殺した。
‘ガラッ’
「・・・やっぱりいたわね」
「ゆ、幽々子様・・・」
だが必死に我慢したのに幽々子が襖を開けて少し呆れたように漏らすその様に、妖夢はなんと言っていいかというように動揺する。
「・・・貴女の思ってることは分かるわよ、妖夢。今日もまたルークの元に行くのかと見ているのでしょう?」
「そ、それは・・・」
「隠さなくていいわ。それに貴女には私も隠すつもりも無いもの」
「え・・・ということは、この後本当に行くのですか・・・?」
「えぇ、そうよ」
だが幽々子はそんなことお見通しということもそうだが、あっさりとまた行くことについてを白状した。
「ただ何故と言いたいのでしょうから、私に付いてきなさい・・・ルークの寝床で話をするわ」
「・・・分かりました、そういうことなら・・・」
その上で続きについてはルークの元でと口にする幽々子に、妖夢も反論せずに頷くしかなかった。主の意向を読み解くにはまだ妖夢には経験が足りなかった為に。






・・・そうして足音を出来る限り静かに消しつつルークの部屋の襖を開けば、そこにはまた苦しむように唸っている姿があり妖夢は辛そうに表情を歪めるが・・・
「ゆ、幽々子様・・・っ!?」
・・・幽々子がそこで自然にルークの布団の中に入っていったことに、声はなんとか押さえつつも驚きの声を上げた。
「・・・大丈夫よ、ルーク・・・貴方は一人で辛かったかもしれないわ・・・けどいいのよ・・・私が側にいるわ・・・」
「・・・え・・・あれ・・・ルークの顔が・・・」
それで続けて幽々子が優しく声をかけてルークの胸辺りにポンと手を置くと、徐々に表情から辛さが消えていくのを見て妖夢は目を丸くした。
「・・・これが理由よ・・・ルークがさっきまでに見たように苦しむ事になったのは、罪の意識に苛まれているということもそうだけれど・・・ルークが子どもであることを理解し、寄り添ってくれる誰かがいなかったことだと思うわ」
「・・・それは・・・ミュウでは駄目だったのですか?」
「あの子はルークがルークとしてなんとか踏みとどまれた最後の存在ではあるでしょう。けれどあの子はルークから離れないという気持ちだけで、ルークを理解するのもそうだし彼が頼るにはあまりにも幼すぎた・・・貴女も分かるでしょう?言葉が分かる程度の自分よりも一回りも二回りも普通の人間の小さな子どもに身を預け、寄り掛かる事なんて出来るはずがないというのは」
「・・・確かに、そうですね・・・」
それでそのままの体勢のままにルークがこうなった理由の推測を話していく幽々子に妖夢がミュウの事を話題に挙げるが、返された例えについてを聞いて納得してしまう。妖夢はまだ成長途中と言えるような体ではあるが、それでも幽々子の言ったような体格の子どもに寄り掛かるには自分の体は大きいし、負担になるどころではないということに。
「そう。そしてルークの周りはどうだったのかと言われれば、寄り添うどころか突き放して責めるばかり・・・そんなことをされて傷は癒えるはずはないどころか、むしろ深まるばかりよ」
「・・・言いたいことは解らないではないですけど、そんなことをここで話して大丈夫なのですか?話の中身を聞いたらルークが辛いと思うこともですが、そろそろルークが起きないとも限りませんよ・・・?」
「その心配はいらないわ。声をかけた時にはよく眠れるような術も共にかけておいたから、普通に会話をしているくらいじゃ起きないわよ」
「え・・・幽々子様、そんな術を使えたのですか?」
「あまり使ってきたことはないけれど、一応嗜みとして覚えていたのよ。実戦ではこんな術など使えないけれど、まだ妖夢が小さかった頃に寝かし付ける時の為にね」
「なっ・・・!?」
更に幽々子がそんなルークについて話を進めていくのだが妖夢が慎重にルークの目覚めについてを口にすると、術を仕掛けているとの返しもだが自らの小さな時についてを言われてたまらず顔を赤くした。そんなことをされていたなど予想外も予想外だった為に。









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