焔に触れ亡霊の姫は変わりゆく

・・・幻想郷にある白玉楼の主である西行寺幽々子。彼女にとって死とは身近な隣人のような物であり、さして恐れるような物ではなかった。既に亡霊の身である事もあって死などもう訪れる筈のない身であり、彼女自身の能力・・・『死を操る程度の能力』もあり、誰かを死に至らしめることなどどうでもいいような相手であれば躊躇うことなどなかった。

最も、彼女は白玉楼が冥界という死後に行く世界であり生きている者でも空を飛べなければいけない場所にあることもあるが、彼女自身特に白玉楼から外に出る必要があるような事もなかった為にその能力を使うようなことなどほとんど無くて、周囲に被害を及ぼすこともなかった。といっても彼女からすれば必要に駆られるような事態が訪れなかったから、単に能力を使うことが無かっただけなのである。

故に彼女は死に対して思うところなどなかった。彼女が『聖なる焔の光』と出会い、彼と時間を共にしていくまでは・・・


















「・・・暇ね~。妖夢は買い出しに行ったし、紫もしばらくは来ないでしょうしどうしようかしら?」
・・・白玉楼の中、庭先の日本庭園を屋敷の中から見ながら幽々子は言葉通り退屈そうに表情を変えていた。周りには世話役のような形で控えている亡霊達はいるが彼らは話すことは出来ず、彼女の従者であり話せる妖夢は出掛けていて友人であり数少ない白玉楼に来れる紫は少し前に来たから彼女のペースからして、もう少ししなければ遊びに来ることはないのは分かっていために。
「・・・仕方無いわね~。少し散歩でもしましょうか」
だからこそ暇な時間を少しでも紛らわす為にと、幽々子は一つ頷く。






・・・それで外に出て白玉楼の中を散歩していく幽々子だが・・・
「・・・あら?あれは、男の人?」
・・・そうしている歩いている内に白玉楼の一角の壁に座って座り込んだ形で倒れている赤毛の男の存在に気付き、幽々子は男に近付き顔を覗きこむ。
「・・・気絶しているわね・・・ここに朝からずっといたなら妖夢が気付かないわけないでしょうし、妖夢が出ていってからここに現れたのなら・・・この人は幻想入りしてきた人なのかしら?他のところならいざ知らず、白玉楼になんて聞いたことがないけど・・・」
だが目を閉じたまま反応のない男に幽々子は少し考え込むように頬に指を当て、幻想入りなのかと訝しむ・・・白玉楼は幻想郷の一部であり幻想入りについても幽々子は知っているが、白玉楼という冥界にある場所に幻想入りとして誰かが来ることなど無かった為に。
「・・・取り敢えず中に入れましょうか。しばらくまだ起きそうにもないし、このままここに放置しておくのも良くないでしょうしね」
そんな風に考えていった中で幽々子は世話役の亡霊達を呼びに行こうと、場を離れていく・・・一見見ず知らずの男を不用意に家に連れていく行為だが、幽々子の力なら普通の男一人など容易に撃退出来るという自信があるがための行動である。






「・・・ん・・・」
「あら、起きたかしら?」
・・・それで白玉楼の部屋の中。
敷かれた布団に寝かされていた男が意識を取り戻したというよう声を上げたことに、その横で様子を見ていた幽々子は微笑を浮かべながら声をかける。
「う、ん・・・えっと・・・あ、あれ・・・ど、どういうこと・・・だ・・・!?」
「・・・あら?」
だが男が意識を取り戻して起き上がるのだが、次第に戸惑いと驚愕を浮かべていくその様子に幽々子は訳がわからず首を傾げる。









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