影で動き影で処する

・・・アニスが両親を見捨てることが出来なかったのは、両親に対する想いがあったからというわけだけではない。ただ見捨てることが出来るほどにアニスが成長していなかったから・・・そうルークはジェイドから聞いた。

それはどういうことかとルークが聞くと、例えるなら虐待を受けている子どもが何故周りに助けを求められないのかといったようなものだという・・・助けを求めても助けてくれる人に出会えなければまたより酷い虐待を受ける可能性が有り得るといった考えからという状況もあるが、虐待が恒常となっている子どもはそもそも助けを求めるという行為そのものすら教わる事が出来ない・・・知ることすら出来ないままに生きるから、助けを求める事を考えることが出来ないのだと。

ただそれがアニスに何故繋がるのか分からないといった表情をしていたルークだが、そんな様子にジェイドはこう答えた。助けを求めるという事も見捨てることが出来ないというのも、誰かに教われなかったから選択出来なかったのだと。

その点でダアトにバチカルの下層に代表されるようなスラムであったり、家族友人を見捨てるようなことも普通に有り得るような劣悪な環境が存在しない事も大きかったとジェイドは言った。この辺りはローレライ教団の総本山であるダアトがそんな劣悪な所があるなどというのは望まれないという見栄からであったり、そこに住む者達がダアトを保全しようという気持ちを持って動いていたからだと。

そしてそういったことから全く金は使わなくていいではないにせよ、ダアト住まいの者達は衣食住で困ることがない状態にもなりやすく、日常的な意味での軽い助けはともかく本気の意味での助けを求めたり求められることはなく・・・そういったことからアニスは本当の意味での助けを出すことが出来なかったのだろうと言われた時、ルークは納得せざるを得なかった・・・以前のアクゼリュスの後で自分の非を認める事が出来ず、謝ることも助けを求めることが出来なかったのはそのやり方を知らなかったのもあるからだと。

そしてそういった周りの環境から本当の意味で借金をどうにかしたいというように苦心している者達など周りにはおらず、更にはモースの目が光っている事を考えればどうやれば助かるかに助けを求めていいか分からないままに生きざるを得なかったのだろうと。

・・・だからこそ両親達とは会えなくなりはするものの、物理的に大きく距離を離した上で借金に縁遠いような生活にさせようとルーク達は考えたのだ。アニス本人からすれば借金癖を無くした文句のない優しい両親との生活を望んでいるのだろうが、そんなことが出来なかった以前を知っているからこそのこの策なのである。

ただ一応というか、これでもアニスにとってはかなり軽い処分であるということは確かなのだ。スパイをやっていたことを考えれば表立った罪に問われない上に、アニス当人には借金の責は及ばないといったようにしている。これはルーク達がせめてものといった気持ちで行動しているからこその破格の処遇なのである。

しかしそんなことを知らないからと言っても両親の事だったりを思って行動するだとか、不満を表してしまうのは良くない結果を招く事になるようにするというのは必要性のある防止策であった・・・実際にそれでアニスは両親の残した負の遺産で苦しむことになり、助けを求められないままに生きることになったのであるから・・・









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