影で動き影で処する

「・・・ちなみにどんな証拠があった?」
「代表的なのはやはりダアトを出て以降に宛てただろう手紙だ。中身としてマルクトに連れられ向かっていっているというものであり、アニスの名前で出されている・・・これだけでも十分にアニスをスパイとして罪を裁くには十分だろうが、他にもまだ証拠はいくつかある。スパイという事を言い逃れ出来ないやつはな」
「マジか・・・」
そこにルークが本当なのかと確認の言葉を向けてきた為、アッシュは紙の束を見ながら嘘ではないと強調してきたことに何とも言いがたそうな様子で頭をかく。
「・・・しかし何故アニス=タトリンはスパイなどと・・・」
「それに関しての理由は見当はついている・・・この借用書だ」
「借用書・・・?」
トリトハイムはなんでスパイなどと漏らす中、アッシュが紙の束の中から一つの紙を借用書と言いながら取り出しルーク達の方に向ける。
「と言ってもアニスが借りた物ではない。タトリン夫妻、いや他にもあったがおそらくは導師守護役の家族がした借金の借用書・・・そんなものが何故モースの手元にあるのかと言えば、自身の手の者として使うための材料として金を身内に借りさせるようにしたのだろう」
「そんなっ・・・ではその借金は大詠師の指示の元で金を取らせるようにしていたというのですか・・・!?」
「借金取りと結託、もしくは利用すれば十分に可能な事だろう。結託したとしたなら導師守護役の家族に返しきれない借金を背負わせろ、利用はどういった奴が借金しているのかを報せろといったように言う形でだが、どちらでも言えることとしてはモースからすれば使える手駒を増やしたかったから・・・といったくらいの考えでそうしたんだろうがな」
「なんということを・・・大詠師・・・!」
それで借用書についてを話していく中でいかにモースが行動しているかだったりその狙いがどのような物かを口にするアッシュに、トリトハイムは怒りを浮かべるように声を漏らす。あまりにも非人道的であり、影でそんなことをモースが行っていたということに。
「義心に燃えるのはいいですが、少しお聞きしたいことがありますので聞いてよろしいですか?」
「・・・なんでしょうか?」
「パッとこの借用書を見ましたが、とてもこんな金額など一般の家庭で借りるような事など出来ない以前に何のために使うのかもそうですし、そもそもこんなお金を必要とする程生活は困窮する物なのですか?ダアトでの生活というのは」
「っ、そんなわけありません・・・ただ、今大佐の言葉を聞いて思い出しました・・・教団の人間の中、それも一般の教団の人間には自分の為に金を使うよりも他人の為に使うことを考えている者達がいると・・・」
ジェイドがそこでどうしてこんなに金を借りるのかの理由についての心当たりはあるかと水をかけるような形で問うのだが、トリトハイムもその言葉で冷静さを取り戻したといったように考え込みながら漏らしていく。
「・・・皆様もこのダアトの様子を見たなら分かるでしょうが、基本的にダアトにはローレライ教団に預言の信奉者くらいしか存在しておらず、この教会以外は人が生活出来ればそれでいいといった派手な物などほとんどない質素な街並みです。そして街並み同様、人柄としても飾り気のない者達が多く預言に従い生活すること以外に楽しみなど持たぬ者が多いと聞いたことがあります。そしてそんな物だからそういった者達を狙う悪質な金貸しや物を売り付ける者達がいて、他に使う金もないから軽い気持ちで金を使っていたら借金を背負わされることになった・・・といった者達が少なくないと聞いたことがあります」
「・・・そしてそれは騙されたから痛い目を見たという者もいれば、騙されたといったように考えることすらない者もいる・・・といったことを聞いたことがある、というところですか?」
「はい、そうなります・・・」
そうしてダアトやそこに住まう者達の特徴もそうだが基本的な考え方についてを口にしていくトリトハイムに、ジェイドが先の予測が出来たというような言葉を口にすると重々しい頷きが返ってきた。その事を認めたくないというよう。









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