人の皮を被った獣などいくらでもいる

「例えあいつが危険だとかって理由があったっていうのに加えて、助けられるかどうかなんて全く思えないからっつっても心苦しいって思う気持ちを持つことは悪いことじゃねーと思う。まぁだからっつってそれでモースを見捨てた事が正当化されるとかって訳じゃねーけど、そうやって正当化されることの方が多分イオンにとっちゃ辛いんじゃねーかって思うんだけど・・・どうだ?」
「・・・確かに、そうですね・・・それが正しかったと言われるのは、どうにも心地好くないという気持ちはあります・・・」
「だろ?・・・いつかお前がこういったことに慣れる日が来るかどうかなんてのは俺にはわかんねーよ。でもそういった気持ちがあって葛藤出来るってことはお前はモースとは違うし、獣にならないで済むと思う。まぁそれがモースがいなくなったことに関しての解決とかに繋がるって訳じゃねーけど、少なくとも教訓には出来ると思うんだよ・・・モースのような獣にならないようにだとか、自分はこうしたいって気持ちを持つためのな」
「・・・教訓、ですか・・・」
ルークはそれでイオンと話を進めていき、教訓にといった言葉を聞いて神妙な表情を浮かべた。ルークの言葉に感じる所があったというよう。
「・・・まぁすぐにどうこう今すぐ全部決めろなんて言わねーから、今出来ることを一つ一つやっていく内に考えていきゃいい。この後ナタリアやアニス達に会いに行って話をすんだから、一先ずそこについてはこれからの空き時間で考える形でよ」
「・・・そうですね。アニス達の事もありますし、自分でどうしようか空いた時間に考えたいと思います」
それで話は一先ずここまでにといったように言うルークに、イオンも大分吹っ切れたというように頷き返した。心の内全てを整理出来たわけではなくても、そのきっかけをもらえたということに。






(『獣、か・・・なんつーかモースを表すのにピッタリと来た言葉だって思えたな』)
(まぁその辺りに関しては幻想郷で暮らしてきたから考えられるようになったことなんだけどな・・・言葉遣いとか態度とか色々と取り繕うことは出来ても、薄皮一つ剥がしたら剥き出しの欲望しかない・・・紫のことを見たなら分かるだろうけど、妖怪っていうのを差し引いてもモースの方が獣だって思うんだよ。預言の為にっていう実質的な自分の為にって考えを他の誰かに平気で犠牲に出来て、見せ付けられる事が出来るってことはな)
(『確かにな・・・』)
(ただそれでも、どんな言い訳をしても俺達も自分達の為にモースを見殺すって選択をした獣だって端から見たら言われるようなことをしてる・・・それを忘れちゃいけないって俺は思ってる。そうじゃなきゃ本当に獣になっちまうってな・・・)
(『・・・そう、か・・・』)
・・・そうしてイオンが再び歩き出していく中でルークは心中で『ルーク』と会話をしていくのだが、いかにルークが濃密でいて様々な経験をしてきたのか・・・そしてそれらを滲ませながらも以前のらしさを失っていないといった様子の言葉達に、『ルーク』は受け入れる以外になかった。獣と呼ばれても今の自分を見失わないようにしたいといった覚悟の強さの程も伺える気持ちが見えたことに・・・









獣は生きる者なら誰しも獣になりうるもの



意志のあるものは獣にならないようにと動くもの



獣となる時を選べてこそ意志を持つ者の特権である



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