人の皮を被った獣などいくらでもいる

「・・・フフ、予想通り妖怪の餌としてはいい人物でしたわ」
・・・そうして一部始終をスキマの中から見ていた紫は愉快そうに微笑を浮かばせる。餌としての素質に間違いはなかったと。
「後は他に適当に彼ほどではないにしても、餌となる者をまた探しましょうか。ルークが戻るまでしかあの世界に関わる事もないのだから、ね」
そうして紫はまた別のターゲットを探そうと、オールドラントの別の場所についてを確認していく。






・・・紫からすればルークは親友である幽々子から想われている事もあり、幻想郷の住人として比較的に気に入っている人物になるが・・・そんな紫がルークに見せるのは対人としての顔であって、その心中や考えまではほとんど明かしてはいない。そして何故そうするのかと言えば、幻想郷の管理者としての考えや行動はルークに限らず他者に知られるのは良くないと思っての事だ。

現にモースの時に音漏れもそうだが他者を近付けないようにと結界を張っていたのが、そういった行動の一端である・・・幻想郷において調停者の役割を担っている博麗の巫女とも管理者としてそれなりに交流している紫だが、その巫女にバレるような形で人さらいをすることもだがそんな話もしたことはない。それは何故かと言えば、いかに管理者とは言え巫女もそうだが巫女に近しくて異変が起きた際の巫女の協力者達との敵対に繋がりかねないからだ。

平時は巫女の性分もあるが揉め事さえ起こらなければ人も妖怪も関係無く平等に接する巫女だが、人間が何人も食い殺されるような状態が続いていると見られれば巫女はその状態の解決に動く。それが巫女の役割というのもあってだ。

だがルークが言ったように妖怪が人間を食えないということは色々と問題が出かねないからこそ紫が影で動いているのだ・・・外から人間を拐い、巫女を始めとした者達にバレないようにするために。

ただ巫女の勘はとんでもなく鋭く働くこともある上、元々の頭も悪いとは言えない・・・博麗の巫女として、幻想郷の維持の為に必要な事を紫は行っていることはどこかしらで感じていることだろう。表面化しないか自分の目に見える範囲で行動しないなら追求も何もしないと、敢えてその辺りについては何も言わない形でだ。

・・・話を戻すが、そんな巫女やその周囲にバレるようなことを紫が簡単にするわけがない。偶然何かの拍子に幻想郷に入ってきてしまっただけの人間は例外としても、餌として適任と見て連れてきた人間に関しては確実に逃がさないようにした上で自身の従者以外にバレないようにと鉄板の手段を取ってきた。そしてそれでミスをしたこともない。

と言うよりは連れてきた者達に関してを逃がすような事になるのも問題になるからこその配慮でもあった。ルークが言ったように紫が連れてくるのは生きる気力のない者であったり罪人などであったりといった者達であるが、前者はまだしも後者がもし生き残って人里に行くことになり大事件を起こしたのなら目も当てられない事態になる・・・故に餌として拐ってきた人間に関しては、確実に餌になってもらう形で死んだのを見届けるまでが紫のやることの一連の流れであった。もしもの事態を避けるという意味でもだ。

・・・それもこれも全ては幻想郷に、ひいてはその中で暮らす面々の為の行動である。その中で新入りであったり知り合いに迷惑を被らされる事もあるが、それでも一時の異変程度の事なら大目に見ることは出来る。むしろそう言った異変は幻想郷では刺激として時折無くてはならないからだ。

だが幻想郷の住民以外ではある程度弁えはするが、そうしなくていい相手に対してなど紫は遠慮などする気はない。何故なら彼女は人ではなく、人の姿をしているというだけの妖怪だからだ・・・









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