人の皮を被った獣などいくらでもいる

・・・そうして時間が進んで空いた時間に二人はアッシュもそうだが、前日にローレライにも紫のやることについてを話したのだ。紫が行動するだろうからそのお膳立てをするためにも、何も知らないと言った体で話を進めようと。そして結果は先程の通りであり、紫との繋がりなど見せてなかった為に怪しまれることもなく事は進んだのである。


















・・・そうして時間は戻り、場は鬱蒼とした森の中へと移る。



「・・・がっ・・・こ、ここは・・・?」
・・・突如開いたスキマの中からポイっと放り出され、首筋を手で押さえながら周りをモースは見渡す。だがモースを放り出したスキマは既に閉じてしまっており、周りに見える光景は遠くを見渡せない薄暗い森でしかないことに疑問の表情を浮かべていたのだが・・・
「なっ・・・!?」
・・・そんな時に森の奥から異形の存在が数多く現れて来たことに、モースは唖然とした表情を浮かべた。オールドラントに存在する魔物とは明らかに違う妖怪の姿なのもそうだが、明らかにその全員から向けられる視線に感じたのは控え目に言っても・・・獲物を狙う物だったからだ。
「き、貴様ら近付くな!わ、私を誰だと思っている!?ローレライ教団の大詠師だぞ!私に危害を加えたらどうなるのか分かっているのか!?」
‘‘‘‘・・・’’’’
たまらずモースは自身の立場を口にして近付けさせまいとするが、妖怪達がそんなものなど聞くはずもなく唸り声を上げながらジリジリとにじり寄って来る。
「っ・・・ぐっ・・・!」
‘ガブッ!’
「がぁっ!?」
そんな様子にたまらずモースは背を向けて逃げ出そうとするが、大して動きが早くないのも相まって犬に近い姿の妖怪が足に容易に噛み付いてきてたまらず苦悶の声と共に地面に倒れこんだ。
「・・・だっ、誰か!誰か助けよ!私は大詠師モースだ!助けてくれれば思いのままの褒美を与えるぞ!」
『無駄ですわ、どれだけ助けを呼ぼうともここに人は来ません』
「なっ、だ、誰だ!?」
しかしまだモースは諦めきれないと必死に誰かを呼ぼうと叫ぶが、辺りに紫の声が響いたことに戸惑いの声を漏らす。
『誰かと言われれば貴方をそこに連れてきたものですが、貴方にとっては残念でしょうがそこには人は来ませんわ。ここは普通の人など来ない森の深くですし、そもそもその辺りは私の結界により閉ざされています。誰かが万が一にでも叫び声を聞き付けてくることなどありませんわ』
「なっ・・・何故そんなことをする!?分かっているのか!私は大詠師だぞ!こんなことをしてタダで済むと思っているのか!?」
『あらあら、今から死ぬ貴方がそんなことを心配する必要はありませんわ。ですがお気遣いだけは受け取っておきますわ』
「なっ・・・!?」
そんな声に紫は余裕綽々と言った声で返していき、焦ったモースの捲し立てを涼しく流して絶句させる始末であるがたまったものではないのはモースだ。
「・・・た、頼む!た、助けてくれ!こ、こんなところで私は死にたくない!金ならいくらでもやる!だから・・・!」
『見苦しいですわ。今まで預言の為にと様々な者達の運命を狂わせてきたのですから、今度は貴方がそうなる番です・・・精々苦しんでください。ではごきげんよう』
「ま、待て!待ってくれ!」
再度たまらず形振り構わない命乞いをするモースだが紫は一切取り合うことなく話を終わらせ、声が聞こえなくなったことに呼び掛けの声を大きくするが・・・
‘ガブッ!’
「ぐあぁっ!?」
それまで黙って何もせずにいた妖怪達が動き出し、今度は肩口に噛みついてきた妖怪にたまらず痛みに叫び声をまた上げた。
「い、痛いぃ・・・た、頼む・・・た、助けてくれ・・・わ、私は死にたくない・・・死にたくない・・・!」
・・・それで自身の周りや視線の先に群がる妖怪達に痛みを感じながらも恐怖に顔を歪めていき、モースの必死の懇願の声が響くが妖怪達は四方を見えないくらいに密集して塞ぐ。



「ギャアァァァッ!」



・・・そして完全に姿が見えなくなった後、断末魔の声が結界の中の空間に響き渡り・・・以降はただ獣が肉を食らうような咀嚼音のみがしばらくの間辺りに響いた・・・









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