人の皮を被った獣などいくらでもいる

『受け入れるにはそなたにとって難しい事であるのは重々に承知している。ただ第七譜石の中身に関してはアッシュが説明した通りであり、ユリアが預言を詠んだのはそのような滅びを避けるためだ。だがその預言という物を繁栄の為に詠まれた物だと考え、独断で動いて広めてしまったのがユリアの弟子でありダアトを造り上げたフランシスになる。そして広まりきった預言のイメージを払拭する事はもう出来なかった・・・その時にはもう預言は人々の意識に深く根付いており、人々の生活から引き剥がすなどしようものならそなたのような反発を招くのは目に見えていたからな』
「当たり前だ!預言が滅びを詠まれたなどと信じれる筈がなかろう!」
『そう、そなたが今言ったような事を言うのが容易に想像がついた。だからこそ容易に第七譜石が見付かったなら今言ったような物になるだろう上で、本当の第七譜石は別にあると言った話になり・・・滅びを詠まれた第七譜石はその中身が偽物と断じられたこともあって、中身は一言一句たりとて歴史に残される事もなく最後はその預言の通りにオールドラントが滅びることになっただろう。ありもしない繁栄を夢見て、何故第七譜石は見付からないのだというように絶望する形でだ』
「っ・・・!」
そんな姿にいかに第七譜石が早くに見付かったならと仮定していくローレライだが、話の中でモースの表情が更に厳めしい物に変わっていく・・・モースからしたなら預言が滅びを詠まれているということもそうだが、ローレライという存在がそんなことを言っているということにあってはならない事だと様々な考えから思っている事だろう。
『・・・有り得ないとそちらは言いたいのだろうが、それを真実だと見て動いたのがヴァンだということを忘れてはおらぬか?』
「っ、何・・・?」
だがそこでヴァンの事を口にされると、途端にモースの顔が戸惑いに揺れた。
『ヴァンはホドで第七譜石を見付けてその中身が確かであることを確信したのだろう。それは何故か、と考えてみれば答えは考えてみれば単純だ・・・敬虔なローレライ教団の信者、それもユリアの子孫という立場にいる自分がホドもろとも消滅と言ったような目にあったことからだ』
「な、何故そうだと言える・・・?」
『考えてみよ・・・そなたがもし死にそうな目に遭って、預言にそれが詠まれていたと言われたか知った上で伝えられていなかったなら・・・伝えなかった者をどう思う?言えばそれを避けるために逃げるかそれに準じた行動を取る可能性があったから、敢えて何も伝えなかった・・・というような者をだ』
「っ・・・そ、それは・・・」
そこでヴァンの立場に加えて例え話だというように口にされた話の中身に、モースは途端に口ごもり冷や汗を浮かばせるしかなかった。
『・・・そう考えたなら分かるであろう。そなたら預言保守派にユリアシティの者達は預言により犠牲になる者達の事を必要なことだと割り切るのではなく、単なる結果の一つと心に影を落とすような事も何とも思いすらしなかった。そしてユリアシティはそんな風な考えを持つ者ばかりで、ヴァンも事情を知っていく内に理解していったのだ・・・自身の身の境遇や不満をいくら声高に叫ぼうとした所で黙殺か、ヴァンの身ならユリアの子孫を残す為に飼い殺しにされるのが精々であり、そんなことをしても意味がない・・・だからこそヴァンは行動を起こしたのだろう。自身の感じた怒りをぶつけることもそうだが、預言が一般に思われているようないいことばかりを詠まれているような代物ではない・・・むしろ第七譜石の中身に詠まれたような滅びの為の道筋に行く為の物だと考えてな』
「っ・・・!」
そんな反応にその内心を指摘しつつもいかにヴァンが考えて動くようになったのか・・・それらを言葉にしていったローレライに、モースは苦々しくも否定の言葉を返せなかった。特に預言保守派お得意の手段であった不平不満を持った者への対応について、自身だったらどう思ったのかというのを照らし合わせたことも相まって。









.
8/21ページ
スキ