人の皮を被った獣などいくらでもいる

・・・それで話を聞くことになったモースだがルーク達、と言うよりはアッシュからヴァンが『ルーク=フォン=ファブレ』の入れ換えを行っていた事についてを経緯を交えて聞いた時には、目を見開いて驚愕せざるを得ない状態になっていた。






「・・・なんと・・・ヴァンがそんなことを・・・」
「ですが陛下・・・ルークとアッシュの二人の姿は服装と僅かな髪の色の違いを除けば、全くの瓜二つ・・・ルークが双子として産まれたなどと聞いたこともない上で、双子の片割れを奪っていたとしたならそれはそれでで問題になりますが・・・ルークが屋敷に戻ってきた時に記憶が全くない状態だったことに関しては、レプリカとして造られたからだと言うなら説明はつきます」
「・・・っ!」
・・・それでインゴベルトと公爵がアッシュからの話に驚愕しつつも冷静にと言ったように話をする中、モースは冷や汗をかいて息を呑んでいた。
「・・・モースよ。そなたは知らなかったのか?アッシュは神託の盾として、六神将として名を馳せていたと聞いているが・・・」
「その事に関してですが、大詠師は神託の盾の者の集まりであったりの前に姿を現すようなことなどありませんでした。神託の盾に命を下す際にはヴァンかリグレットと言った責任者の立場にいる者くらいとしか会うことはなく、特に神託の盾の軍の集まりに顔を見せる事などありませんでした。これは会う必要もない者について気にかける事も顔を覚える必要もないだろうという大詠師の性格や考え方、そして実際に行動に移すことのない怠惰さをヴァンが逆手に取ったからこそになります。そして今言ったように私が神託の盾として名を馳せるようになっていく中、大詠師と顔を実際に合わせるような事などありませんでした」
「・・・成程。ヴァンが上手かったのかモースの怠慢が過ぎたのかはさておきとして、そういうことから事実は露見せずに済んだということか」
「っ・・・!」
インゴベルトは視線をモースに向けて追及しようとしたのだが、そこでアッシュが口にした言葉の数々に納得と共に呆れを浮かばせ、モースは苦々しくも歯を噛む以外に無かった・・・言ってしまえばアッシュの発言は事実でしかなく、ヴァン達数人程度の多少顔を合わせる者くらいしか覚えてない上で、それ以外の配下の神託の盾に姿を見せることはおろか顔など兜を被っているのだから名前も含めて覚える意味もないと断じて生きてきたのだから。
「・・・モースよ。そちらからしての言い分があるのは分かる上で、アッシュがヴァンの元にいたいと思わせた理由は我々にもあることは承知の上で言わせてもらうが・・・アッシュが六神将の一人として名を馳せるまでになったというのに、ヴァンの活動にある程度とは言え注視をしていなかったのは怠慢と言わざるを得ぬぞ」
「そっ、それはその・・・ヴァンがそんなことをしているとは思っていなかったというか、奴とその配下は任務について私が何か言うまでもなく完璧にこなしたという報告をしてきたので・・・」
「だからヴァンを信用し、自身の配下の顔すら見ることもなく判断を丸投げにしていたというのか・・・」
「くっ・・・!」
そうしてインゴベルトがヴァンについての姿勢に厳しい言葉を投げ掛けてくるのだが、モースはろくな言い訳が出ずに声を漏らすしか出来なかった・・・実際問題として、アッシュの事を微塵たりとも気付かなかった事実があったために。









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