焔の存在を幻想にさせぬ為に

「そういう貴方もキムラスカ王という立場を降りたではありませんか。見たところまだまだ貴方は現役でも十分に活躍出来るでしょうに」
「・・・相変わらず口が回るな、お前は・・・そういうところは歳を取っても変わらんようだが、俺は変わった・・・昔の俺なら出来る限りは自分とナタリアの二人でキムラスカを発展させるなどと言っていたのだろうが、もう無理だと感じたんだ・・・何も考えることのなかった時のよう、ルークと一つに戻る前のようにナタリアを愛して共に国を導く事を考えるなどな・・・」
「昔の貴方・・・いえ、アッシュであった時なら考えられない言葉ですね」
ジェイドはそんなルークに国王陛下という身分を降りた事を口にするが、表情を苦く重い物にするその様子にアッシュと口にする・・・かつての師であり、今となっては歴史上最悪の犯罪者と呼ばれている男につけられた名を。
「・・・あの戦いが終わって三年後、奇跡的に大爆発によってルークと一つになって戻ってきたあの時から俺はもうアッシュでもルークでもなくなった・・・いや、正確には一人の人間に戻ったことでようやく本当の『ルーク』になったんだろう。だがそうして一人の『ルーク』になった俺だが、ベースはアッシュであった俺ではあってもルークの記憶に経験までも大爆発で得た俺は・・・ナタリアは本当の意味で『ルーク』という存在を愛してないのではないかと思い、それが間違いではないと確信するようになっていった」
「・・・ルークの記憶を得たからそう考え、確信するに至る・・・前にも聞いた話ですが、ルークを恨まなかったのですか?そういった考えをもたらすに至ったルークの事を」
「・・・恨むことはないどころか、ナタリアに対しての戸惑いしかなかった。そして次第に納得していった・・・アッシュとしてだった頃の俺はナタリアの想いも少なからず感じていたつもりだった。だがルークの記憶に感情を受け入れた時、ナタリアがルークの事を本物の『ルーク』として記憶が戻る事を願うその姿に衝撃を感じずにはいられなかった・・・アッシュだった頃の俺は勝手にナタリアはあの屑に対して幻滅していたり、俺という本物の『ルーク』が戻ってくることを信じているものだというように思っていた。だがルークの記憶にあるナタリアはアクゼリュスでの時が来るまで、アッシュの俺に対して向けていた感情と比べて全く遜色ない物だった・・・」
「そして貴方は思うようになった・・・ナタリアが自分に、いや『ルーク』という存在に求めていたものとは何なのかと」
「あぁ・・・ナタリアは俺の事を愛していると今でも言ってはくれる。だがそれが本当に俺を見ての物ではなく、あくまでも自分の思う『ルーク』が相手だから・・・そうではないかと思うようになってから、俺は本当の意味でナタリアを愛せなくなったんだ。幸いにと言っていいとは思わんが、気持ちが薄れて行く前に子どもを早く作れたのがせめてもの救いだったがな」
「キムラスカ王族の存続もそうですが、今こうして貴方が元王という立場になれたことも含めてですね?」
「あぁ・・・自分の子どもとして生まれたあいつを愛していない訳ではないし、ちゃんと父親として接してきた。だからこそ次期王に任せても大丈夫だと思い、俺は身を引いた。ナタリアはまだ早いと言ったが、若い世代に後は任せるべきだと説得する形でな・・・だがその真意は、もうナタリアと共にあるべきと思えなくなっただけだったんだがな・・・」
「・・・その様子では貴方の気持ちが移ろい覚めていった事にナタリアは今も気付いてないのですか?」
「そうだと見ている・・・子どもが出来れば女は変わると聞いていたが、ナタリアは変わる事はなかった。むしろ子どもが出来たからこそ理想の為に邁進し、『ルーク』と共にキムラスカを良くしようという気持ちが強くなっていった。この辺りは自分の立場もあって頑張りたいと思ったんだろうがな・・・」
「理想が高すぎて足元も周りも見えていなかったということですか・・・皮肉ですね。ルークと大爆発が起きたからそう見れるようになり、却って冷静にナタリアを御した上で愛してない事を悟らせないようにするとは・・・」
そのまま自分を『アッシュ』とした上で話を進めるアッシュの話に、ジェイドは眼鏡を押さえながら言葉を漏らす。かつての二人を知るからこそ変わった一人と変わらない一人の対照的なその姿と関係が、ジェイドからしてみてどうとも言いようがない気持ちにさせられた為に。









.
3/17ページ
スキ