足を運び命を運び

「・・・その辺りのさじ加減は確かに難しいでしょう。ですので陛下は叔父上達とモースで分けるようにと申しましたが、叔父上達にではなく父上個人に宛てる手紙を出すのがよろしいかと思われます」
「公爵のみに?」
少し間が空き考えが浮かんだとアッシュが口にした案に対し、ピオニーはどういうことだと首を傾げ視線で先を促す。
「バチカルの城に二つ手紙を出せば可能性は低いにしても、モースがマルクトから手紙が来たなら自分が有無を言わさず検閲するというように動いて、二つに分けたとしても意味がなくなる可能性もあります。ですので名義上は父上宛に俺とルークから手紙を送り、ヴァン達の事を始めとして色々と困惑せざるを得ないことを書き記して少しの間戦争に踏み切らないよう時間稼ぎをしてもらうようにと伝えたなら、モースに簡単には情報は伝わらないと思われる上で父上も思いきった行動には出ずに叔父上だけに内密に話をするように動くかと思われます」
「ふむ・・・まぁ確かにその方が断然に安心と言えば安心だろうし、モースが手紙を自分の元で握り潰すということも無さそうだな。ただ絶対にそれがうまくいくとは限らんと思うが・・・」
「あくまで時間稼ぎが出来たならこちらとしては上々の結果と考えている上で、レプリカ技術関連についてを記したならどう少なく見た所でヴァン達への不審を抱くことはまず間違いないでしょう。何せファブレの屋敷に何度も来ながら自分は『ルーク=フォン=ファブレ』の事については何も知らないと、自分がファブレやキムラスカを騙していたことなど全くおくびにも見せずにいたわけですからね」
「成程・・・それで更にヴァン達の目標についてを報せたなら、いくらモースが向こうにいるからとはいえ・・・いや、向こうにいるからこそ素直に戦争をしようとは思わなくなるだろう。何せヴァンに騙されている可能性が高いのだから、モースにも何かしら騙されているのではないかとな」
アッシュがそう発言した中身についてこういう狙いがあるからこそというように言っていくと、ピオニーもその中身に納得して頷いていった。それなら確かに向こうに疑念をもたらすには十分だと。



(『なぁ、アッシュは口にはしてないけど確実にナタリアのことを計算してこれ話してないか?』)
(ここで言ったらどういうことだって話になるのは目に見えてるから黙ってるだろうけど、まず間違いなくな)
そうしたピオニーの姿を見る傍らでルーク達は内心で会話をかわす・・・もう確実にナタリアの入れ換えの件は明らかになっていて、苦渋の決断をしはしたものの確実にモースの事を信じられなくなっているだろう公爵達の心を揺らす為にその事をアッシュが利用するだろうことを。



「・・・よし、分かった。そちらの案で行くとしよう。こちらがファブレの家にわざわざ手紙を送っても怪しまれてモースに話が行くのがオチだろうし、そちらの名義で手紙を送れば向こうも下手に一蹴は出来んだろう。ただ少しアッシュは出発する前に時間をくれ。手紙はこちらが責任を持って出すようにはするが、向こうを信じさせるためにもそちらが何かファブレから連れ去られる前の殿下でも知らないであろうエピソードで印象的な事でも書き記してくれ。そうすれば証拠として絶対とは言わんが、有力な物となるだろうからな」
「分かりました。そういうことでしたら喜んで手紙に一筆添えましょう」
「あぁ、頼む」
そうしてピオニーは決心がついた上でプラスアルファの要素を付け加えてほしいとアッシュに言い、その中身にすんなり頷いた姿に満足そうに頷き返した。一先ずやれることはやれると。









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