焔の存在を幻想にさせぬ為に

・・・オールドラント。かつてこの世界は滅びの危機に瀕していた。預言という星の未来が見た滅びの道筋を辿る危機もそうであるが、栄光を掴む者という名前を持つ者が預言を覆す為に預言にまみれた世界全てを滅ぼし、預言に詠まれない存在を使うことにより新たに世界を作り替える形でだ。

その二つの滅びの機会・・・これらは、後に英雄と呼ばれる者達が集まり行動を起こしたことにより避けることが出来た。そしてその英雄達はその滅びを回避させた後、自分達の故郷へと帰っていった。最終決戦となった地に一人の・・・いや、二人の英雄を残し。

そして三年の時が経ち、再び集まった英雄達は最終決戦となった地を一望出来る場にいたのだが・・・その場に残っていた英雄の一人が現れた。いや、正確には二人に分かれていた英雄が元の一人となって戻ってきたのだ。三年の時を経て。

仲間達はその英雄の帰還に喜び、悲しんだ。一人が生きて帰れたのに、もう一人はその一人と一つの存在となったことで二度と戻れない存在となったことが確定したことに。

だが一人となって戻れたこと、それ自体が奇跡のようなものでありこれ以上は求められない・・・英雄達の頭脳役とも言えた仲間の言葉に、一同は沈痛な面持ちを浮かべる以外になかった。だがその人物から続けられた言葉に、他の仲間達はすぐに食って掛かった。『ルークの事は諦めると共に、これからはいなかった人物として扱おう』という言葉に。

この言葉に怒った一同・・・だがこうして奇跡的に戻った英雄に対し、ルークという人物はもう戻れなくなったことを強調すればその英雄の帰還に水を指す事もそうだが、それでももしかしたら何かの奇跡でルークも復活するのではないか・・・という有り得ない可能性を大衆に認知させる事の是非を口にされ、一同は黙りこんでしまった。

一同は頭脳役の人物から色々と説明されたからまだ理論的にこういうことがあったと理解出来てはいるが、大衆はそうだとちゃんと認識してくれるとは限らないどころか曲解していつかルークが戻ってきてくれるのではないか・・・そういった奇跡を期待し、起きもしない事を願われてもどうにもならないと分かっている為に。

故に様々な葛藤があったが、一同は頭脳役の人物の言葉通りにすることにした。戻ってきた英雄も複雑そうな表情こそ浮かべはしたが、最終的にはその結論に頷く形でだ。

・・・そうして英雄が戻った事を世界は祝った。奇跡が起きたのだと。だがその傍らでもう一人の英雄がいたことを知る者も多々いたが、影で理由を話した上で黙っていてもらうことによりもう一人の英雄については大きな話題となることはなかった。

そうしてもう一人の英雄については徐々に語られることがなくなり、その英雄がいたとの記憶を持つ存在も時が経つにつれて少なくなっていった・・・初めからその存在などなかったかのよう、幻想となるような形で・・・


















「・・・お久しぶりですね、ルーク元陛下」
「あぁ久しぶりだな、ジェイド=カーティス元帥・・・七十にも近い年齢であるというのに、よく船旅など出来るな」
「フフ・・・それももう今回限りです。冗談や大袈裟などではなく、もう体にガタが来ていて戦うどころか歩くことすら億劫になるほどにキツくて仕方ありません。ですがそれでもこうしてこのケセドニアまで来たのは、誘いがあったからというのもありましたが最期に貴方に会っておこうと思ったからです。もう私も長くないでしょうからね」
「・・・本当に冗談や大袈裟ではないようだな、体の具合は・・・」
・・・英雄である『ルーク』が戻ってきてから三十年後。ケセドニアという地でかつてアスターという領主が住んでいた屋敷の一室にて、二人の老年の男性が顔を合わせていた。
二人ともに50に68という年齢から考えてみれば十分に若いと言える顔立ちをしているが、ジェイドと呼ばれた老人の顔に刻み込まれたシワとその疲れたような笑顔と言葉に、ルークと呼ばれた中年の男性は感じていた。その言葉に詰められた想いは大袈裟や嘘ではなく、真面目な気持ちがこもっていると。









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