軍師、子どもをもらう

「えぇ、貴女を守る為です。おそらく私が貴女を監視下に置くと言わなければ、貴女は精神的に相当にキツい事になっていたでしょうからね」
「・・・え?ちょっと待ってください・・・と言うことはもしかして、丞相の方からモース様に働きかけたんですか?私を養子に取るって・・・」
「・・・えぇ、ついでに言うなら私が養子を取るようにとの預言は真っ赤な嘘です」
「ハアァァァッ!?」
孔明は変わらず答えを返していくがまさかの事実にアニスはたまらず叫んだ、預言の中身すら嘘と聞かされて。
「落ち着いてください・・・そもそも私がそのようなことを画策したのは、大詠師が貴女を導師のスパイに仕立て上げると本人から聞かされたからです」
「えっ・・・どういうことですか、それ・・・?」
「大詠師は私に言ったのですよ。導師が病気を患った後に性格が変わったから、もしもの事を考えアリエッタからアニスに導師守護役を変え内密に常に連絡を受けさせるようにすると・・・まぁ言葉こそ思いやりを持った物のように言っていましたが、大詠師の言葉の裏を考えればそれくらいは容易に読めますよ。貴女をスパイに仕立てあげたとね・・・そして大詠師は私がそう察した上で自分の望み通りに動いてくれると勝手に思い込んでくれていますが、そんなことをするつもりはないんですよ」
「そんなことをするつもりはないって・・・」
「私は一般的には大詠師の忠実な部下と見られることが多いですが、別にそんなことはありません。ただ私が大詠師の窓口になっていることが多いから、そうだという見られ方をされているに過ぎません」
「そうなんだ・・・」
その上で自分はモースに忠誠を誓っているわけではないと言い切る孔明に、アニスは意外そうに声を上げる・・・普段の職務でモースに近い位置にいて腹心とも呼ばれるような存在とダアトの人間の中では共通認識のため、孔明がそんな考えであるとは知らなかったが故に。
「話を戻しますが、私は大詠師がそうするつもりでいるという話を聞かされた後に色々と調べた上で彼に具申したのです。預言の中身について先程申し上げた事を告げた上で、私が貴女を引き取ると。最初は何故わざわざアニスをと彼も言っていましたが、下手に両親の事で追い込み過ぎて彼女を逃がすような事態になる方が厄介だと言えばすぐに納得してくれました」
「っ・・・!」
「・・・調べたと言ったでしょう?当然両親の事は私も知っています。貴女にとっては辛いことだと知りながら申し上げたのは感心できないことだとは思いましたが・・・」
更に話を続ける孔明だが両親の事を口にした瞬間唇を辛そうに噛み服の裾を握りしめるアニスの姿に、申し訳無いといった響きの言葉を向ける。
「・・・それで、モースが納得したから私は丞相の養子になることになったんですね?」
「厳密に言うなら、貴女の両親にもちゃんと顔を合わせた上で話をしました。養子についての事を・・・その結果として彼らは私の立場もそうですが、預言に詠まれたと言うこともあってそういうことならと笑顔で貴女を任せると二人ともに言ってくれました」
「っ・・・だからパパとママは、私を笑顔で送り出したんだ・・・また嘘で騙されてるなんて、知らず・・・!」
アニスはそのまま再確認するように養子の件について話を先に進めるが、孔明が聞きたい事の核心を先読みして両親の事を話すと怒りと悲しみを入り混ぜたような声を上げて涙をまなじりに溜める・・・それもそうだろう。歳もまだ若い自分達の娘を大切な事だからと大喜びで別の人間に身を預けるのだ。娘の立場から言えば何の感情も湧かない方がおかしいと言えた。








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