軍師、子どもをもらう

「・・・はぁ・・・」
・・・ダアトの通路を歩く少女、アニス。彼女はとある部屋を目指しているのだが、周りに人がいないこともあってタメ息を吐くことを禁じ得なかった。









「・・・失礼します」
「あぁ、来ましたね。楽にしてください」
「・・・はい」
それで目的の部屋に来たアニスは硬く挨拶をし椅子に座っていた孔明は出迎えるが、表情を変える事は出来ない。
「・・・預言に詠まれたからとは言え、やはり割り切れませんか?あぁ、別に罰などないので本音で答えていただけるとそちらがありがたいのですが」
「・・・はい、正直に言えばそうです・・・パパとママには笑顔で送り出されましたけど、それも含めて喜べないんです・・・丞相の養子になるって事をすんなりとなんて・・・」
孔明はそんな姿に預言に詠まれた事についての本音を求めると、アニスは表情を暗くして肯定を返す。


・・・そう、アニスが孔明の元に来たのは孔明の預言に詠まれた女の養子を取るようにとの言葉によりアニスがその対象として選ばれたからだ。

とは言えアニスからして見れば色々な問題がある。まずアニスの両親はどちらとも健在であって、表向きはどうあれ別に両親の事を嫌ってはいないということ。その上で両親が自分を惜しむことなく、孔明の元に笑顔で送り出したこと・・・そして人前では言えない理由がもう一つある、それは・・・



「・・・それだけではないでしょう、アニス?」
「え・・・?」
「この場で私も知っているからこそ言いますが、貴女が重い気持ちになっているのは大詠師から言われたからでしょう?私の監視下に置くことで、導師のスパイという立場から決して裏切ることがないようにするために預言を利用させてもらうといった言葉でも」
「っ・・・!」
孔明はそこに核心を突くように大詠師からの言葉と言い、アニスは我慢するようでいて抑えきれない感情を歯で食い縛るようにして露にしていた。



・・・そう、アニスからして最もな問題は預言以上にこれが大詠師による策略と言った点が大きい所なのだ。それも自分の立場に心を拘束するという、極めて厄介極まりない策略だ。

それに元々アニスは両親の借金を盾に取られ、ダアトのトップである導師の護衛役の導師守護役にモースに強引につかされた身だ。孔明に言われたよう、導師の動きを逐一伝える為のスパイにつかされるために。

そんな役割につくだけでもまだ軍人とは言え子どもと呼べる年齢であるアニスにとっては頭を悩ませる種であるのに、預言を利用されてまで普段の生活からも気を張らなければならない形で見張られる事になるなど考えるだけで頭が痛い話であった。



「ですが心配しないでください。私は貴女の事を報告するようなつもりはありません。普段の生活に関しては場所が違うので今まで通りとはならないかもしれませんが、部屋にいる間はゆっくりくつろいでいてください」
「・・・え?」
だが孔明が今までの流れを打ち切るかのようそうしないと何事もなく言った事に、アニスはキョトンとした声を上げた。意味が分からないと。
「あの、丞相・・・それはどういうことなんですか・・・丞相は大詠師から命令を受けているんじゃないんですか・・・?」
「えぇ、確かに受けてはいますがそのような物はさらさら守るつもりはありません。むしろ私が守るつもりがあるのは貴女の方ですよ、アニス」
「えっ・・・私を・・・!?」
たまらずアニスはどういうことかと訳を問うのだが、守ると微笑付きで言われた事に若干頬を染めながら戸惑う・・・こういった所は孔明の顔が悪くないところもあるが、まだアニスも子どもとしてのウブな面がある所と言えた。










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