未来と過去に繋がる後悔

「ねぇ稲ちん。私もいい?」
「あっ、はい。座っていて大丈夫ですよ・・・」
「いいからいいから」
「きゃっ・・・!」
その様子を見ていたくのいちも自分もと立ち上がろうとした為に稲姫は気を使うよう近寄るのだが、笑顔のままにくのいちは稲姫へと驚きなど気にしないままに抱き付く。
「・・・ねぇ稲ちん。前の最後に会った時は敵同士だった。こんな風に話し合うことも出来ず、私達は戦って死んでいった・・・こうやって稲ちんと会えて、もう一度友達に戻れたことは私にとってすごく嬉しいことなんだ」
「っ・・・そう、ですね・・・私も、そう思います・・・」
「でも私はもう旦那様と同じでそんなに生きれない・・・だから旦那様が司馬懿さんにお礼を言ったのを見て、最後にこうして気持ちを伝えたいと思ったんだ。後を引き継ぐって決めてくれてありがとうって」
「っ・・・私、司馬懿様の邪魔にならないよう頑張ります・・・ですから、安心していてください・・・っ!」
そうして抱き合いながらも話をするくのいちに、万感の思いが込められた言葉を受け稲姫は泣きそうになるのを必死にこらえながら声を返していった。最後の時を涙で濡らさぬようにと・・・









・・・そうして最後の挨拶を済ませた孔明達は退出していった司馬懿達を見届けた。
「よろしいのですか?司馬懿殿は性格上丸くなったとは言えわざわざここまで来て私と話すだけなど時間の無駄だと言ったでしょうが、彼女は望めば貴女の見舞いにとこちらに通ってくれると思いますが・・・」
「いいんですよ。稲ちん必死に泣くの我慢してましたし、これから空いた時間を私が死ぬまで使わせるのはいけないって思いましたもん。それに三ヶ月がいいとこだって話でしたけど、多分もう一月の内には確実に私は死んじゃうと思いますからあんまり私の死に目を稲ちんに見せるのはどうかと思って・・・」
「そういうことですか・・・」
二人のみが部屋に残りベッドに共に腰をかけ直した所でもういいのかを確認する孔明に対し、くのいちが少し寂しげに漏らした返しに納得した。いや、納得したのではない・・・
「そしてそれは旦那様も理解してるんじゃないんですか?自分ももう三ヶ月生きれるくらい長くないって」
「えぇ、それは。前の体の感覚から分かっています・・・私も貴女と同じくらいにしか生きられないだろうことは」
・・・そう、くのいちからの言葉通りに自身も感じていたからだ。自分の寿命も同じような物だろうと。
「・・・もう私は後は死ぬ瞬間を待つだけの半死人みたいな状態です。確かに稲ちんと毎日会えるならそれまでの間は楽しいとは思いますし、向こうも私を気遣ってくれるだろうとは思います。けどさっきも泣きそうになってたから分かると思いますけど、稲ちんはもしその時が来たなら泣き腫らすと思うんです・・・だから傷を深くするようなことはしない方がいいかなって考えたんですよ。それに私はもう稲ちんに会えたことだけで救われたような物ですし、後を継ぐって言ってくれた事でもう満足ですからね」
「そうですか・・・ならそれ以上は私からは何も言いませんよ」
だからこそもうこれ以上は望まないし悲しみを深くさせないと明るく笑みを浮かべるくのいちに、孔明もまた微笑を浮かべた。もう完全に割り切って全てを見ているその様子に。









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