未来と過去に繋がる後悔

「・・・司馬懿殿もそうですが、貴女が話していた彼女と話せるようにしましょうか」
「え?どうしてですか?」
「最後の挨拶の為です・・・少なくとも司馬懿殿にはこれからはあまり時間を取れるような余裕はないでしょうから、その前にと思いましてね」
「あぁ、そうですね・・・私達はもういつ死ぬか分かりませんから、先にお別れした方がいいですね」
そうして少しして話をしようと口にする孔明に、くのいちもあぁと納得する。最早取れる時間は限られてるのだから、早い内にそうしないと死んでしまうと明るい様子で。









・・・そして翌日。孔明とくのいちは二人で揃ってベッドに腰をかける体勢で部屋で呼んで来てもらう手筈になっている司馬懿達が来るのを待機していた。
「・・・どうした、諸葛亮。昨日の今日で我々を呼び立てるなど」
「すみません、司馬懿殿。本来ならもう少し時間を空けた後でと思いましたが、何分我々には残された時間は少ないもので今の内に最後の挨拶をさせていただきたいと思ってご足労いただきました」
「・・・まぁそのようなことなら良いだろう。私も病人に無理をして自分で動けなどという程心が狭いわけではない」
「っ・・・」
それで入室してきて早速と挨拶を置いて用向きを問う若干不機嫌そうな司馬懿だが、最後の挨拶と孔明から返ってきてその雰囲気が和らぐと共に稲姫が決意を浮かべた表情を見せる。
「あの、諸葛亮様・・・昨日の司馬懿様とのお話についてをお聞きしたのですが、私も諸葛亮様達と同じような形で司馬懿様と動くように決めました」
「おや・・・流石に友という間柄ですね、くのいち。貴女の読みは当たっていましたよ」
「まぁ稲ちんはこういう時に黙って見てるだけなんて人じゃないとは知ってましたからね~。でも実際にそういった答えを返してくれるのは私としても嬉しかったよ、稲ちん」
「いえ・・・不肖の身ではありますし私が出来ることなどそう多くはありませんが、私も貴女方が繋いだ未来を少しでも長く出来るように尽力させていただきます」
稲姫がそのまま自分も動くと決意を口にし、孔明にくのいちが微笑を浮かべるその様子に誓いを立てる言葉を口にした。後に続くというよう。
「司馬懿殿・・・貴方からは昨日の内にその決意の程はお聞きしましたので、再度その決意を伺うような事は致しません。ですがその代わりに私から言わせていただきたいことがあります」
「・・・なんだ?おい体に無理をさせるな、寿命が縮むぞ」
「すぐに終わります」
「っ・・・!?」
その決意の程を見て孔明が話をしながら立ち上がり司馬懿が心配そうに声をかけるが、すぐ終ると口にしつつ孔明が手を取ってきたことに司馬懿は驚きの様相を浮かばせた。
「・・・貴方ならいらぬことだと言うでしょう。ですがそれでもこう言わせてください・・・後はよろしくお願いいたします、司馬懿殿。そして私達の気持ちを掬いとっていただき、ありがとうございます」
「っ・・・礼などいらぬと本来なら言うところだが、ここは素直に受け取ってやる。心残りを残されて化けて出られでもしたらかなわぬからな」
「ふふ、ありがとうございます」
・・・そうして穏やかな笑みと共に口にされた謝辞の言葉に司馬懿は少し息を呑んだが、らしい皮肉げな言葉とらしくない微笑を浮かべて頷いて返す様子に孔明はまた柔らかに笑って礼を返した。立場もわだかまりも何もなく、ただ一人の人間として互いに向き合えたことに。









.
20/24ページ
スキ