未来と過去に繋がる後悔

「・・・そうして奴の事を聞き、わざわざ顔を見てみればもう死ぬ手前と来たものだ・・・このオールドラントという世界においてはもう戦は余程でなければ起きてはならぬといい認識もあいまり、再び出会ったのにも関わらず奴を超える事が出来ないという事実に私は直面した・・・それが私に落胆をもたらしたのだ」
「それは・・・私は司馬懿様ではないのでどうかとは言えませんが、今の話から貴方が無念であったことは感じます・・・」
「まぁな・・・だが同時に話を聞いてみれば、奴のやってきたことについて理解が出来た。確かに私も諸葛亮の立場に立ったなら、そうしただろうということを。そしてそう考えた時、私は奴の後を継ぐと私は口にしていた」
「それは・・・話を聞く限りでは司馬懿様の言うようなこととは思えないと思いますが・・・」
「・・・事実、私もその言葉を口にした時に自身で驚き諸葛亮にも意外だというように言われた。しかしそれが最善だと判断出来たこともそうだが、そう口にしたことに私の中に満ちた気持ちは悪くない物であった・・・」
それで先程のやり取りを思い起こし稲姫の言葉を受けつつ話をしていく司馬懿は、そっと目を閉じ感じ入るような様子を浮かべた。
「・・・私は確かに諸葛亮と幾度も対峙し、煮え湯も何度も飲まされてきた。だが奴を上回りたいという思いはあれども、奴に憎悪を抱いていたかと言われればそれは今となっては違うという考えに至った。いや、むしろ一定の敬意があったと言ってもいい・・・少なくとも私が粛清した曹一族などに比べれば雲泥の差で奴の事を好ましく思っていたのは確かだ」
「それは・・・諸葛亮様が優れていたからですか?」
「そうだ・・・奴は自身のこだわりから様々に過ちを犯してきたと言っていたが、それでも戦場で相対すればそのようなことなど微塵も見せぬ形で何度も私を追い詰めていた。事実天に助けられなければ私が死んでいたのは確実であった場面もあったくらいだ・・・そこまで私を追い込めた者は後にも先にも諸葛亮以外はいなかったが、今となっては私は奴との対峙に充足を覚えていたのだと感じるのだ。私の才を上回る相手であるからこそ、それを否定して自分が上であるというようにしたいという気持ちからだ」
「司馬懿様・・・」
・・・本来の司馬懿なら口にしなかったであろう自身の本音についてを聞いていき、稲姫はその想いに胸を締め付けられるような感覚を抱いた。正しく司馬懿は孔明を宿敵と思うと同時に、その戦いに強い意味を見出だしたのだと。
「・・・だがこうしてこのオールドラントに転生して奴に出会ってみれば、もう私とは知謀を競えずただ死を待つばかりの状態であったが・・・それでも奴はこのオールドラントという世界の存続を切に願っていた。最早余命も然程残っていない身であるに関わらずだ」
「それは・・・彼女もそうでした。笑顔だけは前から知っていた彼女でしたけど、これからのオールドラントがちゃんとした形で終わるようになってほしいって・・・」
「そうか・・・奴らがどのように行動してきたかは聞いたが、それでもそういった願いを口にしたこともそうだが曹操殿への気持ちを口にした姿に私は初めて諸葛亮という人間をただの人間として認知したと思えたのだ。蜀の丞相として、敵として相対している諸葛亮ではない奴をな。そしてそう認知した時・・・私は奴の後を継いでもいいと思えたのだ。何の見返りもなく、な」
「っ・・・」
そんな司馬懿が今の孔明に対していかな事を思い感じてきたのかを話していくのだが、柔らかい微笑を口元に浮かばせるその姿に稲姫は呑まれたように息を呑んだ。今までの司馬懿にない雰囲気が見えたことに。









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