未来と過去に繋がる後悔

「・・・しかし貴方とこんな風な話が出来るとは・・・本当に何があるか分からないものですね。人生というのは・・・」
「フン、それには同意しておいてやる・・・まぁ聞きたいことは聞けたから私はこれで退出しよう。話をするだけにしても今の貴様は相応に体力を使うのだろうし、この辺りでゆっくりと休むがよい」
「おや、貴方からそのようなお気遣いを受けるとは・・・」
そうして改めて染々と感じ入るような声を漏らす孔明に司馬懿が体調を案じて部屋を出るという言葉が出てきたため、またも意外だというような反応を浮かべる。
「いくらなんでも病人で年寄りの体調を気遣うくらいはするが、それ以上に私と貴様はもう敵ではない・・・後は体を厭い、迎えが来るまでゆっくりと生きよ。貴様がまた同じように転生するかどうなるかは私も予測もつかんが、それでももうここでやるべき事はやり終えたのだろうから後はその時が来るまで待てばいい・・・後は私に任せろ。ではな」
「っ・・・えぇ、そうさせていただきます」
だが司馬懿が続けた言葉と共に外に出ると背を向けたその背中に、孔明はらしくもなく息を呑んだ後にそっと頭を下げた・・・皮肉も怒りもなく、ただ一人の人間として司馬懿が自身に言葉に偽りのない想いを向けてきたことに。



「あ・・・」
「む・・・」
・・・それで部屋を出た司馬懿だが、ちょうど同じように部屋を出てきた稲姫と顔を合わせて互いに声を漏らす。
「えっと・・・そちらも話終わられたんですか?」
「そうだが・・・ちょうどいい。そちらも事情を聞いたというなら今から私に付き合ってほしい。話の中身としてこのような場で話すには都合の悪いことが多いからな」
「は、はい・・・分かりました・・・」
稲姫は自分から会話を切り出すのだが、司馬懿が迷う様子も見せず話を別の場所でと切り出してきた事に戸惑いつつ頷いた。









・・・そうして二人はダアトにある宿に行き、部屋に入って互いの話をした。どのように自分と縁のあった者と会話をしたのかを。



「・・・そうか・・・そちらもそのような戦を日ノ本という場所で行い、あちらの女と戦ってきたというわけか」
「そうなりますが仲が悪かったという訳ではないどころか、彼女の主の兄と私は結婚していてそれなりに仲が良かったので正直辛かった部分はありましたが・・・司馬懿様はどうだったのですか?諸葛亮様との事については私も聞いてはいますが・・・」
「・・・奴との因縁は確かにあったが、ここで出会いあのような姿を見たことに関して正直な所で言うならば落胆を覚えた。だがそれは奴が弱っていることではなく、奴との優劣を決められなかったことだ」
「え・・・?」
・・・そうして互いの話をし終わった所で稲姫から司馬懿にどうかと自身の気持ちを表しつつ問うのだが、その複雑な想いの見える答えに戸惑いを浮かべる。
「・・・後世の歴史書で私と諸葛亮の戦についてどう書かれているかは分からんが、私は諸葛亮に勝って魏を守りきった訳ではない。五丈原での戦いで奴の寿命が切れて蜀が撤退した為・・・戦が続けられない状況になったからそうなっただけだ。その結果について寿命が来れば守りきれた私の勝ちだという者もいるだろうが、私自身は諸葛亮を倒した訳ではない。当時は諸葛亮がいなくなったことを喜びはしたが、時が経つにつれてその事についてを考える内に奴と知謀を競えないということが私の中に少なくないしこりがあることを自覚したのだ。結局私は実力で奴を越えたわけではないのだということをな・・・」
「そんなことを・・・」
司馬懿はそれまでの司馬懿なら言わなかったであろう自身の気持ちを口にして行き、稲姫はその気持ちに複雑な気持ちを抱いた。宿敵を越えられなかったという気持ちが司馬懿の中に強く存在しているということに。









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