未来と過去に繋がる後悔

「・・・少し話がズレたが、私が貴様の元に来たのは貴様の名前を聞いたと共にこの世界で貴様が何をしてきたのかを聞きに来たのだ。と言っても先程の話で聞きたいことは聞けたがな」
「そうですか・・・参考までにお聞きしますが、どのように考えられましたか?私やくのいち達の行動に関しては」
「・・・認めたくはないが、私が貴様の立場であれば同じような事をしていただろうな。私からすれば最早遠い昔の物になるが、預言に振り回される世という物がどれだけ愚かしいかは十二分に理解している。そして当時の貴様の立場に私が立っていたなら、貴様のようにダアトの上層部に入り込み動いていたであろう。預言の真実と言うものを探すためにな」
「そうですか・・・そして貴方なら私と同じような事実に辿り着いていたでしょうね。ただ本心をひた隠しにして動くにせよ、貴方からしたなら当時の大詠師であり預言通りにするために動いていたモースとの接触は耐え難い苦痛になっていたでしょうね。口汚いことを言うような形になりますが、彼は預言達成の為の心意気以外は取り柄と呼べる取り柄など居丈高な態度しかありませんでしたので、貴方は苛立ちを隠す方に苦心していたでしょう」
「・・・それほどに愚物だったということか。そのモースとやらは」
「えぇ、そうですね」
司馬懿はそこで話を戻して用向きについてになるのだが、話の中身がモースに移行したことに司馬懿の表情が嫌そうに歪み孔明はそっと微笑む。
「ちなみに貴方が亡くなる前に国を食い物にしていた曹一族を断罪した事についても聞いています。ただ後世では貴方の行動は曹一族の横暴な行動に対する義心からか、魏を掌握して野望を達成する絶好の機会であったから行動を起こしたのかどちらかで評価は二分されていたそうですが・・・貴方は義心も無いのではないと思いますが、それ以上に人の器という物を見る人だと私は思っています。自分が仕えるべき人物であるなら頭を垂れ、そうでないどころか愚物だと見たなら見限る事が出来る方だと・・・だからこそ曹操に曹丕のように主として見るには過分ではない人物だったから貴方は配下として動き、その後の曹一族が愚かであったことに憤り主としていただくに値しないと判断した。言うなれば貴方独自の義心から行動を起こした、とでも言った方がいいでしょうか」
「独自の義心、か・・・随分ともって回った言い回しをするものだな」
「貴方とはある程度の付き合いがありましたからね。忠義でも盲信でもなく、貴方は貴方の基準の中で動いていた。そういった行動は端から見たなら忠義があるかどうか怪しい物と見えたでしょうが、私から見れば必要があったからやったこと・・・自らが動かねばならなかったと判断したからこそ、曹一族を排除にかかったと見たのですよ。貴方からして色々と我慢がならなかったからとね」
「・・・フン・・・」
そのままな孔明が司馬懿の行動及びどういった人物と見ていたのかということを話すのだが、その中身を受け何とも言い難げな表情で鼻を鳴らす以外にしなかった。



・・・孔明が言ったよう、司馬懿は忠義の人と言うには色々と判断が難しい行動を取っている。その事から後世では評価は分かれる所なのだが、孔明が独自の義心と言ったように司馬懿は性質的には悪人というような存在ではなかった。

だがそれを理解出来る者はそう多くはなかった。実際に曹一族の横暴があったとは言え国のトップを反乱まがいに止めたのは事実であるし、後の晋の建国をその息子が行っていたことから野望を持って魏を乗っ取ったのだと見られてだ。

しかし孔明は過去の付き合いの濃密さから、野望だけで動く人間でも冷血漢でもないと良く理解していた。表向きは皮肉げでいて悪態をつくような言葉を吐きはするが、その実として司馬懿なりに善意があり実直でいて芯の通った人間であることは。









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