女忍、苦労する
「後は何かありますか、謡将?」
「そうだな・・・後はリグレットに伝えてくれ。明日出立するメンバーの中にティアが組み込まれる事になった為、機を見て救出出来るように動いてほしい。ティアが何を言おうともそれを無視する形を取るようにしてと。後は別段私から言わなければならんことはない」
「分かりました、では私はこれで失礼します」
「あぁ、私も城に戻らせてもらう」
それから兵の質問に淀みなく要望を伝えるヴァンに納得した上で、二人は足早にとその場から立ち去っていく。誰かに見られぬよう、警戒されぬように用件だけを伝えて済ませる形で。
「にゃはん♪ダメでっせ、謡将♪仮にも大義を達成させようとしてる時に、当然のように私情を織り交ぜちゃ♪」
・・・だがそんな行動を影で見ていたくのいちは何事もなかったかのようにその場に現れ立ち、上に戻るヴァンの姿を笑顔で見据える。ただ笑顔であるはずなのにその目だけは冷めていて、見るものが見れば心から笑っていないと思えるような物だった。
「それにそんなことされたって、ティアが喜ぶとはとても思えないけど・・・ね。あの娘の事だから余計なことをとか、そんなことをされて嬉しくないくらいは言うのは間違いないと思うけど・・・だからって自分から死にに行くような選択肢もないでしょ。もし謡将の思い描くような展開になって色々と事実を知らされた時、あの娘の事だから信じたくないって言いつつも兄の言葉だからってまた動揺して・・・それで何も出来なくて、ただ自分の非力さを呪うって感じになるでしょ」
ただそこから楽し気にという空気すら無くして淡々ともしもの時のティアについてをくのいちは予想する。
・・・孔明より多少長くティアと共にいたくのいちは表向きは毅然としようとして敵対心を浮かべばしても、心の底に根付くヴァンという兄への敬愛は全く変わっていないと感じていた。むしろ好きだからこそ、ファブレ邸での強行に踏み出したのだと。
そんなティアは理性と本能、そして常識という物が極めて微妙なバランスの上で物事を考えている。そう言ったティアの考え方でもしヴァンと違った意味で敬愛するモースから死を願われた上で、止めようとしていたヴァンからその事実を知らされたばかりか自分の認めない手段で助けられたとなればどうなるか?・・・くのいちは悩みはしつつも何も出来なくなると、そう考えた。
何故かと言うとティアの考え方は本人にそう言えば否定されることは間違いないが、自分の中にある信念という柱が他者により成り立っているからだ。ティアは自分が揺れることなく善悪の判断を私心なく下せると信じてやまないが、所詮ヴァンと一緒にいたいという気持ちが先立った上で自らが所属するローレライ教団の重鎮であるモースをその立場だけで疑うことなく敬愛するその様は、ある意味では思考放棄と言える。
ただそこでヴァンに対して疑心を抱けるのなら問題ないと言える、ような物でもないのだ。ティアがどこまで事実を確認しているのかは孔明達にも検討はついてはいないが、それでもヴァン達の計画について重要な部分を聞いたことは間違いないと容易に推測が出来る。実の兄を刺すまで思い詰めていた事から・・・なのにそこまでしておいて、未だ迷う様子を見せるティアの事を大丈夫などと無条件に言える人物はまずいないとしか言えないだろう。
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「そうだな・・・後はリグレットに伝えてくれ。明日出立するメンバーの中にティアが組み込まれる事になった為、機を見て救出出来るように動いてほしい。ティアが何を言おうともそれを無視する形を取るようにしてと。後は別段私から言わなければならんことはない」
「分かりました、では私はこれで失礼します」
「あぁ、私も城に戻らせてもらう」
それから兵の質問に淀みなく要望を伝えるヴァンに納得した上で、二人は足早にとその場から立ち去っていく。誰かに見られぬよう、警戒されぬように用件だけを伝えて済ませる形で。
「にゃはん♪ダメでっせ、謡将♪仮にも大義を達成させようとしてる時に、当然のように私情を織り交ぜちゃ♪」
・・・だがそんな行動を影で見ていたくのいちは何事もなかったかのようにその場に現れ立ち、上に戻るヴァンの姿を笑顔で見据える。ただ笑顔であるはずなのにその目だけは冷めていて、見るものが見れば心から笑っていないと思えるような物だった。
「それにそんなことされたって、ティアが喜ぶとはとても思えないけど・・・ね。あの娘の事だから余計なことをとか、そんなことをされて嬉しくないくらいは言うのは間違いないと思うけど・・・だからって自分から死にに行くような選択肢もないでしょ。もし謡将の思い描くような展開になって色々と事実を知らされた時、あの娘の事だから信じたくないって言いつつも兄の言葉だからってまた動揺して・・・それで何も出来なくて、ただ自分の非力さを呪うって感じになるでしょ」
ただそこから楽し気にという空気すら無くして淡々ともしもの時のティアについてをくのいちは予想する。
・・・孔明より多少長くティアと共にいたくのいちは表向きは毅然としようとして敵対心を浮かべばしても、心の底に根付くヴァンという兄への敬愛は全く変わっていないと感じていた。むしろ好きだからこそ、ファブレ邸での強行に踏み出したのだと。
そんなティアは理性と本能、そして常識という物が極めて微妙なバランスの上で物事を考えている。そう言ったティアの考え方でもしヴァンと違った意味で敬愛するモースから死を願われた上で、止めようとしていたヴァンからその事実を知らされたばかりか自分の認めない手段で助けられたとなればどうなるか?・・・くのいちは悩みはしつつも何も出来なくなると、そう考えた。
何故かと言うとティアの考え方は本人にそう言えば否定されることは間違いないが、自分の中にある信念という柱が他者により成り立っているからだ。ティアは自分が揺れることなく善悪の判断を私心なく下せると信じてやまないが、所詮ヴァンと一緒にいたいという気持ちが先立った上で自らが所属するローレライ教団の重鎮であるモースをその立場だけで疑うことなく敬愛するその様は、ある意味では思考放棄と言える。
ただそこでヴァンに対して疑心を抱けるのなら問題ないと言える、ような物でもないのだ。ティアがどこまで事実を確認しているのかは孔明達にも検討はついてはいないが、それでもヴァン達の計画について重要な部分を聞いたことは間違いないと容易に推測が出来る。実の兄を刺すまで思い詰めていた事から・・・なのにそこまでしておいて、未だ迷う様子を見せるティアの事を大丈夫などと無条件に言える人物はまずいないとしか言えないだろう。
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