未来と過去に繋がる後悔

「泣くことないよ、稲ちん。前に比べたらこうして布団の中でゆっくりと死ねるってことを考えると断然いいことだと思うし、前みたいに立場の違いから稲ちん達と敵対することも無いしさ」
「それは・・・そうだけれど・・・」
くのいちはそんな稲姫に笑顔でいいことだというように返すのだが、それでも表情は晴れることのないままである。



・・・くのいちと稲姫は前世において、所属する国や主は違えども友と呼べる間柄であった。そんな間柄になった理由は数少ない女性で戦に出る人物同士であったのもそうだが、くのいちの主の兄と稲姫が結婚したことにある。

その事からとある時期が来るまでは二人や周りの面々達は穏やかでいて友好的な間柄であったのだが、とある人物が亡くなったことによりそういった間柄からくのいちと稲姫は敵と敵といったように別れて行動することになり・・・最終的にはくのいちは主の意志を汲んだ形で稲姫達側と戦い、死んだのだ。

戦となれば親しかった間柄だろうが、そんなものは関係無い。戦わねば負けるのもそうであるし、戦わなかったからといって生き残れるかどうかもそうであるが誇りや尊厳などを踏みにじられないという保証もないのだ。それに二人は主の意向に従う臣下の立場にあった身であり、主の意思に反するような選択をすることも出来なかったのだ。
故に二人は争うこととなったのだが、稲姫は気丈ではあろうとはしても元々の気質として情け深く友達想いだったのだ。戦場では人前だというのを考慮して気丈に振る舞い戦ってきても、そんな稲姫が心に影を落とすのは当然と言えた。



「・・・それでも気が晴れないって言うならさ、ついでにもう一つ聞いていい?」
「え・・・何をですか?」
「・・・大阪城での戦いの結末もそうだけど、幸村様はどうなったの?」
「っ!?」
そんな姿にくのいちはならといっそ自分が死んだ後の主と結末についてを問うのだが、内容が内容なだけに稲姫は絶句せざるを得なかった・・・くのいちが出した名前の幸村は前世の主であり、大阪城での戦いと言うのはくのいち達にとっての最期の戦いであり命を失った所で稲姫からすれば決して明るい思い出ではないために。
「・・・稲ちんが気分が良くないのは分かってるし、結末も大体想像はついてるよ。もう大阪城も落ちて豊臣方は負けて、幸村様も生きてはなかっただろうって・・・でもこうして稲ちんと会えたんなら、聞いてみたいんだ。旦那様も私が旦那様が死んだ後の事を知ってるって言ったら話を聞きたいって言ったから話をしたけど、その気持ちは私にも今なら分かるの・・・せめてどうなったのかくらいは確認の為に、稲ちんの口から聞きたいんだ。そう聞けたなら私も前世の分も含めて、気持ちよく逝けると思うから」
「っ・・・分かりました・・・そういうことなら話をします。それが私に出来ることなら」
「・・・いい顔になったね、稲ちん。それこそ私の知る稲ちんだよ」
だがくのいちが儚い笑顔を浮かべて望みを口にしていったことに稲姫は覚悟が決まったというよう表情を引き締めて頷き、その顔を見て改めてくのいちは笑顔を浮かべ直した・・・見る者から見ればくのいちが稲姫に気を取り戻させる為に、敢えてこんなように話をしたと取れるよう。









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