女忍、苦労する

「何だ?言っておくがこれは決定事項だ、もう覆すつもりはない!・・・それにあれだけの事をしておいて、何もなしでキムラスカが納得するはずがないのが分からんと言うのか?」
「そ、れは・・・」
「反論出来ぬというのであれば、黙っていろ!せめてもの情けとして、実質的な処刑という事実を伝えぬまま死地へ送り出してやる!ありがたく思え!」
「っ・・・!」
(お~♪怒り狂う上司に刀で心を殺し、拳を握り締めて耐える部下・・・醜いやり取りですな、これは)
そんな陳情を全く意に介さず怒りをぶつけるモースに一層ヴァンは怒りをこらえ、くのいちはそのやり取りを醜いと表現する。
「ふん!・・・さて、もうティアの事について話すのは終わりだ。明日になればお前にはルーク達に付いていく形でバチカルを出るようにと段取りを組んでおいた。お前の役割は分かっているな?ヴァンよ」
「・・・はい、それは・・・」
「ならいい。では下がれ、私はもう休む!」
「はっ、では失礼します・・・っ!」
そして大きく一度鼻を鳴らしてティアの事は触れずに言いたいことを言ったモースは退出を命じ、ヴァンは表向きは逆らわずに頷く・・・だがモースに背を向けた瞬間、悪鬼もかくやと言わんばかりに表情を歪め足早に部屋から出ていく。
(おっと、一応謡将が何をするかを確認しとかないと・・・もうモースに張り付いてたって何もなさそうだしね~)
くのいちはその姿に今度はヴァンの元へ行かんと、姿をまた消し去る。






・・・それでヴァンは用意された部屋に戻るかと思いきや、城の外に出て下の階層に向かう。そして着いたのはバチカルの中層の場所の端である。
「・・・謡将、お待ちしていました。姿を見せぬならこちらからバチカルに忍び込もうかと思いましたが、こうして姿を見せていただいてよかった」
「済まぬ・・・本来ならもう少し早くお前達に連絡を取りたかったのだが、色々予定外の事が起こりすぎてな。早速話をするとしようか」
そこにいた神託の盾兵士が周りを気にしながら話をする様子にヴァンも油断なく話を進めようとするが、くのいちがすぐ近くに潜んでいることには気付けていない。
「まずお前達に頼みたい事があるが、タルタロス以外に船に乗って付いてきている隊はいるな?」
「はい。元々我々はダアトから船で移動していますから、タルタロスと共に海を航行していますが・・・」
「ならその船を動かし、明日は海上に陣を敷け。と言っても示威行為程度に抑える形でな」
「示威行為、ですか?何故そのようなことを?」
早速とヴァンはその神託の盾に取ってほしい行動について指示を出すが、まどろっこしいと言わんばかりに何故と兵士は聞き返す。
「理由は私と奴らの動きを分断するためだ。奴らとずっと行動を共にするとなれば大して時間もかからないまま、ろくな準備も出来ず目的の地へと到達することになるだろう・・・そこでお前達が示威行為をすれば、奴らも船で一路ケセドニアに向かうとはそうそう言わんだろう。その上で私がお前達に対する囮役としてケセドニアに向かう船に乗ると言い、奴らを陸路でケセドニアに向かわせると言った段取りにするという訳だ」
「成程・・・時間稼ぎの為に我々は示威行為を取れという事ですか」
「あぁ。それに私は表向きはお前達とは関係無いと強調してきている。ただその事について怪しんでいる奴もいるようだが、先に私がバチカルから出立出来れば些細な事だ。何の問題もない」
「そういうことですか・・・ではそうするようにと伝えます」
「頼んだぞ」
ヴァンはそうすることについての理由を詳しく語っていき、その中身に兵士も納得して従うと返す。狙いが確かな物であったために。












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