時を経た変化

「そうして怒りで誤魔化してきた痛みは常人とかけ離れた精神状態に思考回路を生んだ。誰かに何かを言っても自分の考えは理解は出来ないけれど、だからと言ってなら自分の考え方を変えることなんて出来る筈もないししたくもない・・・何故ならそうしないと自分を保つことが出来ないから、人からの理解なんて二の次にしないとアッシュからしたら色んな意味でどうしようもなかった為に」
「だからアッシュの三年前に見たような態度は本人からしたなら当然であると同時に、変えることが出来ない物だったということだった・・・けれどそれが変わる出来事が、ローレライによる音素の補填だったと・・・」
「その通りっす・・・そうして自分の中の足りない物を怒りや苛立ちで誤魔化すしかなかった中で、突然ローレライによりその大本を補填されて足りなかった物が予期せぬ形で戻った。けれどそうして特に何か劇的に変わることを本人も周りも、期待も考えもしないままに受け入れたモノは予期せぬ形でアッシュの体に精神を通常の人と変わらない物に戻すことになったが・・・今まで異常という状態に常に浸ってそれを通常として来たアッシュが、そんな状態をどう思うか・・・」
「っ、そうか・・・三年前のアッシュのあの態度はその自身の中の体や気持ちの変化、それもいい方向での物だったからこそ余計に戸惑ったということか・・・!」
それでくのいちが孔明の言葉を代理するような形で説明を続けていき、フリングスはその言葉に合点がいったと言うよう小さく何度も頷いた。今までがずっと悪い物だったからこそいい状態というか、普通の状態がどんなものかがわからなったのだと。
「そういうことなんすけど、そうして怒りや苛立ちの元が解消されたことが却ってアッシュの戸惑いを生んだんだと旦那様は見たんす。今まではそういったことをしてきて精神の安定を図ってきたのに、それをする必要がなくなった・・・そしてそういったことを考えていく内に、ルークに対する怒りが完全に無くなった訳ではないにしてもそれまでに抱いていた程の気持ちなんかより遥かに小さくなっていることに気付いたんす」
「それは・・・彼を主として怒りを八つ当たりのようにぶつけていたのが、その自身の中にあった誤魔化しの怒りが消えてしまったからということですか?」
「その通りっす。今までは八つ当たり同然のルークへの怒りを持って精神の安定を図ってきたけれど、それが自身の中から突然消え去ってしまった・・・けれどそうなってしまった時、アッシュはこうも考えたと思うんすよ・・・今までの自分はなんだったのか、と」
「・・・自分が抱いていて彼に向けていたあの怒りは本物だった筈なのに、その怒りがハッキリと消え失せてしまっている・・・だったらあの怒りは何だったのかに、そしてこれまでの自分は何だったのか・・・私はアッシュではないのでどういった風になったのかは詳しくは分かりませんが、そういったような気持ちに考えが生まれたことからアッシュは戸惑い悩むようになったということですか・・・」
「旦那様はそう考えましたし、ディストもそれでまず間違いないだろうとのことです。今までと今が全く別物だったからこそ、あんな風にアッシュがなったっていうのは」
「・・・そう聞くだけ聞くと、哀れとは言えますね・・・ただそれまでがそれまでですし、元の鞘に戻っただけとも言える上に悪いことではないので何とも言い難いですが・・・」
そうしてアッシュの状態はこういうものだったのだと統括するように話すくのいちに、フリングスは複雑さを滲ませ首を傾げつつ漏らす。言葉通りに何とも言い難い状況にアッシュが陥ったことに。









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