軍師、暗躍と飛躍

「・・・でしたら私はそろそろ港に向かおうかと思いますが、大詠師はいつ頃戻られるかある程度で構いませんので予定をお聞きしたいのですが」
「む?何故だ?」
「いつもでしたら大詠師にはダアトを出る時に予定を伺っていましたが、今回は急な出立で予定を聞く暇もなくバチカルに向かわれましたので聞いておきたいと思ったのです。その方がこちらの予定も立てやすくなりますし、大詠師の出迎えの準備が整えやすくなりますので」
「ふむ・・・まだいつ戻るかはハッキリせんが、しばらくはバチカルに滞在する予定だ。戻る時になれば手紙を出すから、私の事は気にせず公務に励め。よいな」
「分かりました」
孔明は当人にとって不穏な事を考えていることなど無いとばかりに頭を上げて帰還予定についてを聞くと、上司らしいと言えば上司らしいが任せている仕事は元々自分の物だという事を全く考慮してないモースの無遠慮な言葉が返ってくる。しかし孔明は嫌な顔一つせず、すんなりと頭を下げた。
「では私はこれで失礼いたします」
「うむ」
そしてこれで話は終わりと孔明は顔を上げ、別れの言葉を残して退出していく・・・






「・・・お待たせしましたね、くのいち」
「問題ないっすよ、旦那様~」
・・・それで城から出た孔明は近くの噴水付近で待機していたくのいち達の元に近寄り歓迎の笑顔を向けられる。
「とりあえず報告しますが、まずモースは自分の目的が達成されてしばらくしてからでないとダアトには戻らないと予測されます。ですからしばらく貴女達は謡将を止めると同時に、ある程度時間稼ぎを兼ねた行動をお願いします。私の策を為すためにもね」
「ふむ・・・それはいいんすが、どうして旦那様はモースは目的を達成してもしばらく戻らないと考えたんで?」
「彼は大言壮語を用いはしますが、自らが犠牲になることはおろか危険に身を投じるようなことは確実に避けようとします。預言もそうですが、自分の命が何よりも大切だからこそです・・・そんなモースが戦火に包まれる可能性が有り得るかもしれないケセドニアを急ぎの用もないのに、強引にでも向かおうなどという心積もりがあるはずもありません。戻るとしたならケセドニアが中立地帯としての機能を取り戻し、少なくとも自身が街を通っても大丈夫という保証がついてからになるのは目に見えてます」
「あ~・・・慎重って言えば聞こえはいいっすけど、事実を知ってるあっしらからしたら自分だけ安全であろうとしてるだけっすね。周りに散々迷惑をかけておいて、都合がよすぎやすぜ」
それで早速と先程の中身に加え自身の要望を伝える孔明にくのいちはどういうことかと疑問を向けると、未来を予測したかのような物騒な事態と共にモースの取るだろう行動についてを聞きおどけたようにしながらも呆れた声を上げる。
「えぇ、ですが彼はそう考えることもなく自分は必要な人間だからと躊躇無しにそうすることを選択するでしょうね・・・だからこそ隙が出来るのです。彼にとって致命的ともなり得る程のね」
「旦那様にかかればそれくらい朝飯前っすよね~」
「えぇ、勿論です。司馬懿をどういった策略を持って御するか、その労力に比べれば大したことはありません」
そのままモースに対して辛辣な言葉を交わしつつも、孔明は司馬懿という名を用いながら余裕といった様子を見せる・・・このオールドラントで誰も知らないはずの名を出しながら。








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