軍師と女忍、核心へ

ここで実際にその現場にいたわけではないから心身共に傷などつくはずないだろうと思うかもしれないが、当時は幼く政治の都合により振り回されてきたピオニーの立場を考えればあまり精神衛生の状態は決して良くないだろうことは想像は出来たし、身近な存在であって医者とまではいかずとも知識は一般人より十分にあるディストもそういった部分があるだろうと予測した。

皇族として産まれたのに地方へ軟禁扱いで飛ばされ、子ども特有のバイタリティで立場を超えた関係を築いたにも関わらずそういった事件が起きた為に連れ戻される・・・ピオニーとしては子どもながらに立場は理解しつつ、ずっととは言わずとも長い時間をケテルブルクで過ごすと思っていたことだろう。

しかし心地好い時間は終わってしまい、皇族達の自滅により予期せぬ幸せは予期せぬ別れと不幸に繋がってしまった・・・死んでしまった皇族達に権力に執心な者達からすれば降って湧いた好機と受け止めるだろうが、当時の年若いピオニーからすればこの上無い不幸と捉えたことだろう。

その上で唯一残った皇族として祭り上げられたピオニーだが、まだ年齢的に政治に参加出来ない状態もあったことから長い間補佐という名目でつけられた者達によって自由に発言することも行動することもままならなかった・・・これがどれだけピオニーにとってのストレスやトラウマとなったか、くのいちは想像しか出来ないが相当の物だとは感じることは出来た。子どもにとってはあまりにも大人に振り回され過ぎた上で、負担があまりにも重すぎる物だと。



・・・ただそんな状況にあって救いと呼べたことが何かと言うと、ピオニーが現在賢帝と呼ばれる程に能力があったことだ。周りが求めていることであったりピオニー自身が成長しなければならないと努力しただろうこともあっただろうがだ。

そうでなければ今頃ピオニーは誰かがいつも側にいてろくに自分自身で発言も思考も出来なかった身にあったどころか、権力にしがみつく亡者のような貴族達の格好の的として寄生されてマルクトの政治は良くない物となっていたことだろう。そんな権力に執着して媚を売ることに足を引っ張ること以外に能のない役立たずの姿が周りに見えない辺り、ピオニーの優秀さが際立っていると言えるだろう。

だがその優秀さが却ってピオニーの裏の顔や思惑についてを悟られない状態を生んだ上で、この歳まで結婚をしないという行動を許すこととなってしまった。本来ならいくら遅くとも三十までに結婚をするのが皇族として望ましい上に子どもを作ることが望まれるのにだ。

それでもそんなピオニーの行動が許されていたのはピオニーがいるなら、王座についている間は多数の人々からすればマルクトは安泰だと思っているからである・・しかし優秀であることもそうだが、一人に政治や軍事を任せすぎることの弊害というのは必ずしわ寄せが訪れる物だ。そしてピオニー自身もディストから言われたことで、改めて感じたのだろう。最早結婚をしないし、子どもを作るつもりはないという自分の気持ちをのらりくらりとした様子で押し通すことは限界に来ていることを。









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