軍師と女忍、核心へ

「それで、何をお聞きしたいのですか?」
「・・・ナタリアはどんな様子だ?」
「一言で言うなら沈痛な面持ちといった所です。この辺りは我々が望んだことから申し訳ないといった気持ちもありますが、同時に貴方が望んだことでもあります。とは言えナタリア様にも覚悟の上で来ていただいたのですから、そこはあの方自身で飲み込んでいただくようにしていただかなくてはなりません」
「・・・お前達がやったことだというのに、何をのうのうと・・・!」
「貴方は我々の事をそのように言いますが、前にも同じようなことを言いましたが彼が死ななければ収まらないといった気持ちを抑えることが出来ず、結局はナタリア様が苦しむと知って尚結論を取り下げることもなかった貴方に我々の事を批難するような権利はないと思いますよ」
「くっ・・・!?」
そしてナタリア関連で怒りを灯らせた視線と言葉を向けるアッシュだが、改めて孔明が突き付けた事実に口ごもるしかなかった。結局ルークを殺してほしいといった気持ちに考えを取り下げてくれと一度でも言葉にしなかったのは事実であった為に。
「ただもうそれも終わりです・・・ナタリア様の気持ちに関しては時間の経過が必要になるでしょうが、それ以上に彼は貴方の望みにより亡くなりました。ですがそれを公にも言葉にする訳にはいかない以上に、ナタリア様の前でもそうしてはいけないというのは分かるでしょう。貴方が自ら望んだからこそ、彼の死にまつわる話を貴方の口から聞かせるような事をするのは、他ならぬ貴方自身でナタリア様を傷付けるも同義の行動になります。そしてナタリア様だけでなくインゴベルト陛下に公爵など事実を知られる方々の前でその事を言う理由もありませんし、望まれるべくもありません・・・存在しない死者にいつまでもこだわるばかりか、死体を蹴るかのようにいつまでも罵倒し続けるなど見苦しいことこの上ありませんからね」
「っ!」
「彼の死自体を喜ぶなとは言いません・・・ですが同時にもう終わったことを何度も引き合いに出すことに、貴方からしての何かの言い分に彼の存在を用いることは許されないということです。もしそんなことをしたなら彼が生きていてほしかった上で、文句や罵倒を言える対象が欲しかったと身勝手な事ばかりを言うのが貴方だといったように見られるでしょうし、印象は相当に悪くなるのは避けられないでしょうね」
「っ・・・!」
・・・だがルークが死んだことにより、ルーク関連でもう何かを言うことは様々な視点から許されることではない。
孔明が続けた言葉を聞くたびにアッシュは喜びなど浮かべることなど出来ないばかりか、むしろ苦み走ったような表情を浮かばせるしか出来なかった。ルークが死ぬことを求めていた気持ちに嘘はなかった筈なのにだ。



(良くも悪くもっていうか、予想外って感じに失った物の大きさってヤツを実感してるんだろうね~。ルークの事が邪魔で邪魔で仕方無いって思ってたんだろうけど、いざ無くなったらどうしていいか分からないって感じでね)
そんな様子を孔明の隣から見ていたくのいちは内心でそうなっている理由について考えていた。目の敵だと今まで思っていた存在がもう完全にいなくなった(と思わされた)事に加え、もう話題に触れることさえ望まれないのだという事実を今になって考えざるを得ない状態になっているということにあるのだと。









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