軍師と女忍、決意を見せる

「・・・取りあえずアニスは私と一緒に部屋に戻ろっか。今日はもうこれ以上は辛いだろうし、イオンの方には伝えておくから」
「・・・うん・・・」
その上でくのいちも優しく気遣うように共に退出をと口にし、アニスは力なくも頷く。



・・・それで部屋には二人が退出した後、孔明とルークの二人だけになる。
「・・・あの、全部すんなり話を受け入れたって言ってましたけど・・・モースが借金取りと良からぬ関わりがあったってことも、すんなりと受け入れたんですか?」
「えぇ。本当にと驚いてはいましたが、証拠が見付かった上で導師や詠師達も承認していると言ったら信じたくはないけれどそうなんですかとあっさりと・・・言ってはなんですが大詠師という名前と立場に敬意を表しているだけで、モースという個人を見ようとも考えようとしているとも見えませんでした。それこそこだわりが無いんでしょうね・・・人の事を深く見るといったことはなく、表面上の姿や名前に聞いた話くらいにしか」
「・・・酷い、と思います・・・そんな風に考えることを放棄してしまえるということは・・・」
「不幸を不幸と思わないことはある意味では幸福であると言えるかもしれませんし、何かを信じることが出来るのを悪いとは言いません。ですが考えることを放棄してしまい、周りにもそうであることを望むのは決して正しいと言えることではありません・・・少なくともアニスを不幸にしてしまったことを考えれば、決していいこととは言えないのは確実です」
そこでルークが確認の声を向けてきたことからタトリン夫妻に関する事に話は移るが、やはりというか孔明もルークも重い表情と声にならざるを得なかった。分かっていた事とはいえ、タトリン夫妻の一種の異常性は最早どうしようもなかったために。
「・・・もしそんな二人が本当に後悔をするっていうか、すごくキツいって思えるような事になる時って来るんでしょうか・・・?」
「・・・あの二人が不幸になることを望んでいるんですか?」
「不幸になれって心からそう思ってる訳じゃないんです・・・ただアニスがあんな風に泣いてまでいたのに、二人が全く堪えた様子がないっていうのはあまりにも不平等なんじゃないかって・・・」
「成程、そういうことですか」
ルークはそこでポツリとタトリン夫妻に関してのやりきれない気持ちを漏らしていき、一度はどうかといった視線を向けかけていた孔明もその中身に納得して頷く。気持ちは分からないでもないと。
「・・・おそらく二人がそういった気持ちになるとしたなら、すがるものが完全になくなった時でしょうね」
「すがるもの、ですか?」
「二人はローレライ教団においても敬虔な信者であると同時に、教団の中でも相当な程に預言があるならに教団があるならと自身らの幸せを見出だしている人々です。そんな二人ですが先程に言ったように預言が無くなり教団が形を変えても、自身の在り方を他者にであったり何かに見つけはするでしょうが・・・そのような生き方は他者に利が出ていたり迷惑がかからない内は許容されますが、得を生まなくなり害になるようになれば次第によい関係を結んできた筈の者も離れていくことになります・・・物言わぬ存在にすがるのであれば分かりませんが、それが人であればすがることが出来なくなった時に考えることになるでしょう。自分達が孤独であることと、すがれるものが無くなったことの寂しさを」
「・・・裏を返せばその時が来ない限りは二人はダメージを感じないって事ですか・・・」
「そう私は見ています」
孔明はその言葉にこうなるならと自身の考えを口にし、ルークは何とも言いがたそうに表情を歪めるしかなかった。そうなるかは分からない上に、それまでにどれだけの時間がかかるかを考えるとアニスの事が尚不憫に感じられる為に。









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