軍師と女忍、押さえ付ける

「・・・何故と言いたそうだが、我々としても無条件に丞相達を信じる訳にはいかんからだ。そなたからすれば我々は丞相に絶大な信頼を向けていてあのルークの事を確実にどうにかすると考えたと思ったのかもしれぬが、元々ヴァンにより作られた目的が目的だ・・・丞相達の事を信頼するのが本来の筋なのだろうが、こちらが謀られる可能性を全く考えないというのも今までの経験上良くない・・・そう考えての事だ」
「そ、それは・・・判断としては間違ってないかもしれませんが、だからと言って何故ナタリアでなければならないのですか・・・例えあの屑が対象とは言え、そんな場面を見させるなど・・・!」
「っ・・・」
インゴベルトはそう言った理由を無条件に大丈夫などとはしないためと言うが、アッシュは案自体には賛同しつつもナタリアにそうはさせないでいいだろうと気を使うように返す。だが当のナタリアが少し辛そうに表情を歪めたことにアッシュは気付いていなかった。
「・・・この謁見の間を人払いしている理由を言ってみよ」
「えっ・・・それは、ここでの話が他の者達に聞かれてはならぬ話だからでは無いのではないですか・・・?」
「そうだ。現にキムラスカの上層部でもこの事について知っているのは今のところ我々三人だけだが、だとするなら誰をあのルークを処刑する場面に派遣するかになる・・・だがわしは会談が実現したとしたならケセドニアに行って話をまとめるまでが精々外に出れる時間の限界であり、クリムゾンも公務の関係上外に出過ぎるのも望ましくない地位にある。となれば残ったナタリアが一番都合がいいのだ・・・最近まで自室にて謹慎してもらっていたナタリアに復帰後の任として、適当な役割を持たせたとすれば誤魔化しもききやすいのでな」
「た、確かにそうなのかもしれませんが・・・」
「それでもナタリアにそんな場面を見せたくないと言うのがそなたの言い分だろうが、様々な点から見ての試しの機会を与えているのだ。そなたもそうだが、ナタリアに対してな」
「え・・・?」
インゴベルトはまず人払いの件から話を進めていきアッシュも戸惑いながら答えていくのだが、ナタリアを試すと言われてまた戸惑いを浮かべる。
「言ったであろう、勝手にアクゼリュスに行こうとバチカルより飛び出した話については。その事については謹慎して多少は考えをまとめることが出来たかもしれぬが、だからと言ってそのままナタリアを大丈夫だなどと無条件に信じる訳にもいかん」
「だから大丈夫かを試すために、あの屑を殺す場面に立ち会わせると・・・?」
「言っておくが、ナタリアには既に了承を得てある。この場でいきなり切り出したことではないぞ」
「っ・・・そうなのか、ナタリア・・・?」
「はい、それは間違いありません・・・それに貴方の事を知る者を迂闊に増やせぬ以上は私以外にこの役割を担えるのはいないということと、あのルークを殺さねば貴方が納得することはないと・・・」
「それは・・・っ!」
「貴方がそうして私を気遣ってくれる事は嬉しくは思います・・・ですがお父様達から何度も念入りに聞かされてきましたし、そうしてあのルークを殺すことに関しては撤回しない姿を見て・・・私も覚悟を決めたのです。どうしてもそれを止めようがないというなら、お父様から命じられたのもありますが貴方の気持ちの為にも私があのルークの死を見届けなければならないと・・・」
「っ・・・!」
インゴベルトがその意図が何かと言った上でアッシュはナタリアと会話を交わすのだが、悲痛そうには表情を歪めるが自分も譲らないといったように返すナタリアにアッシュは盛大に苦み走った表情を浮かべた。譲らないと決めた事がナタリアの悲しみを抱く決断を招き、それが他ならぬ自分自身が理由だという事に。









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