軍師、勧誘する

「・・・正直な気持ちを言うなら、私は丞相の事を信じれるかと言われてもまだ無理だとしか言えない・・・話を聞いた限りでは丞相のやり方は回りくどく、甘い物と言える。そんなやり方では閣下のやり方と比べて、成功する可能性は低いと言わざるを得ない・・・だが、その丞相のやり方がマルセル・・・お前を救ってくれた。閣下が見捨てた命を助ける形でだ」
「・・・じゃあ、姉さん・・・!」
「あぁ・・・丞相はお前を救ってくれたし、お前と敵対することなど考えたくもない・・・私は丞相につこう」
「姉さん!・・・ありがとう・・・」
「・・・マルセル・・・」
・・・そして最終的にリグレットは迷いを浮かべながらも、孔明につくことを選んだ。
その選択を聞いてマルセルはリグレットに抱き着き、リグレットはそんなマルセルの背に手を伸ばしジンワリと幸せを噛み締めるように目を閉じて抱き締め返した。
「・・・そのままの体勢でいいので聞いていただいてよろしいですか?」
「はっ!そ、そう言うわけには・・・!」
「いえ、私についてくれると言ってくれたのはありがたいのですがこれからの事もありますから、貴殿方二人は頻繁に会うことは出来なくなります。ですので抱き合われたままで結構ですよ」
「・・・頻繁に会えない?」
そんな光景に今まで邪魔せずにいた孔明が話しかけるとリグレットは慌ててマルセルから身を離すが、会えないと聞き何故と言いたそうなのが見えるほど表情を分かりやすく変えてしまう。
「えぇ。マルセルを含めた他の者は今、ダアトではなく私の協力者の元で生活しています。今回は貴女の為に彼を変装させる形でここに呼びましたが、このダアトや近辺で彼に生活してもらうと様々な危険が生じるのです。彼の知り合いに見つかることもそうですし、何より謡将に見つかればどうなるか分かりません。彼の顔を覚えていないのなら誤魔化しようはあるでしょうが、覚えていた場合は貴女の忠誠をより確かにする意味に手駒を増やす意味も兼ねた従属を強いてきて、そこで彼が断れば問答無用で始末にかかるでしょう」
「っ!・・・だから、マルセルはダアトにいない方がいいということですか・・・」
「理解が早くて助かりますが、私につくと言ってはくださいましたが謡将の元から離れるのは時期を見計らった上ででなければなりません。おそらく謡将は貴女の事を信頼はしているでしょうが、裏切ったとなればためらわず彼は貴女を処断します・・・彼はそういう人間です」
「っ!・・・・・・丞相の予想は、間違いではないでしょう・・・閣下は味方には優しく敵には厳しい、そういう人です・・・」
「姉さん・・・」
だがすぐに姉弟二人の立場からの危険を孔明より聞かされ、リグレットは否定出来ずに悲痛な面持ちを浮かべマルセルは心配そうにその様子を見つめる。
「ですから来るべき時が来るまで、貴女には間蝶・・・分かりやすく言うならスパイとして動いていただきたい。情報が欲しいと言うのもありますが、後の謡将にとっての埋伏の毒となっていただく為にもね」
「・・・それはよいのですが、情報は私の助けがなくとも十分に丞相なら得られるのではないのですか?それに、埋伏の毒とは聞いたことのない言葉ですが・・・」
「情報については基本的に彼女・・・我々だけの場ではくのいちと呼んでいただけるとありがたいのですが、私の妻が集めてはくれますが彼女の体は一つしかありません。その点で彼女の負担の軽減の為にも貴女に謡将達の様子をより身近な視点でお伝えしてほしいのです。後、埋伏の毒とは甘い物に毒を包み入れて毒と思わせずに飲み込ませる策の名です。毒を毒のまま飲み込ませようとしても、普通の人間ならまずすんなりとは飲み込みませんからね・・・分かりましたか?」
「・・・分かりましたが、丞相がここまでの顔を隠しているとは思いませんでした・・・まさかこれほどまでとは・・・」
「フフ、誉め言葉として受け取らせていただきますよ」
孔明はそのままやってほしい事を告げた上で疑問にも懇切丁寧にスラスラと話を進めていき、リグレットはそのヴァンとは違った意味での裏の顔を見たことに驚きを隠せずに声を漏らす。その様子を見て孔明は手元に持っていた羽扇で口元を隠すように笑う、隣でニコニコしていたくのいちとセットになるような形で・・・












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