軍師と女忍、押さえ付ける

「聞かれなくても大丈夫と言ったように言っていますが、次のバチカルでの話が終われば私もですが周りは貴方をアッシュとは呼ばなくなり、ルークと呼ぶようになります。そしてその扱いもまた本来の貴族に対して向ける態度に変えますが、貴方もまたそうしなければならないのですよ。自分が『ルーク=フォン=ファブレ』であるという自覚を持って動くようにしなければならないものとして」
「っ!」
しかし続けられた自覚を促す言葉に、たまらずアッシュは息を呑んでしまった・・・もうアッシュでいられる制限時間はほとんど残っていないのだと、嫌でも認識させられる中身であった為に。
「・・・今更私達に対して好意を抱くようになどといった所で貴方にはキツい物があるでしょうし、そこから先の我々の対応は今までの事から空々しい物にしか思えないかもしれません。ですがそろそろ我々相手でも、対外的に体裁を整えるくらいはしてください。まだ貴方にはローレライ関連でやることがある可能性があるので完全に別れるということにはならないかもしれませんが、戻ると決めた以上はその態度も表面上は改めてください・・・私からアッシュとしての貴方に言える助言はこれまでです」
「っ・・・!」
そして突き放すように最後の助言だと言い話をした後に孔明は自分の席の方に戻っていき、アッシュは怒りをこらえるような・・・それでいて苦い気持ちを押さえるような表情を浮かべて拳を握り締めるしか出来なかった。


















・・・それで以降はアルビオールの中の空気は静かな物となり、誰も何も喋らない物となっといった。アッシュの醸し出す空気が今まで以上に誰かを拒否するようでいて、その実は誰にも今の自分に触れてほしくない・・・そう言っているかのような物であった為に。

しかし沈黙は続いても、アルビオールの移動は止まることはなく・・・バチカルへと程無くして到着した。



「・・・ローレライと、ローレライの鍵か・・・」
「予想外の出来事が起きたことに我々も戸惑いましたが、それらも含めてどのようにするか・・・その為にもキムラスカとマルクトの両国による、首脳会談を行うべきであると具申させていただきます」
「首脳会談か・・・」
・・・それでバチカルの城の中の謁見の間。最低限の兵士も置かず、その場には孔明達とインゴベルトと公爵の二人しかいない。
そんな場で一連の流れを説明した上で首脳会談についてを切り出す孔明の声に、インゴベルトは脇に控える公爵と共に悩ましげな表情を浮かべる。
「・・・会談に関して、何か思うところがあるのでしょうか?」
「いや、丞相の危惧するような事はない。むしろ今となっては会談については行うべきであるとは思っている上で、臣下達も話をすればどうにかなるであろう・・・そこに関してはこちらでどうにかするが、問題はまた別にあるのだ」
「問題・・・ですか。どのような問題でしょうか?」
孔明はその様子に関してどうしたのかと聞くと、別の問題があるからこそ悩ましいとインゴベルトは返す様子に更に先を促す。
「・・・アッシュ、いや今はもうルークに戻る事にしたからルークと呼ぶが・・・ルークもそうだが、ナタリアの事だ」
「っ・・・!?」
ただインゴベルトから意を決して出てきた言葉に、アッシュはたまらず目を見開いた。自分の事だけでなく、ナタリアの事まで出てくるという予想だにしていなかった言葉に。









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