軍師、頭を抱える

「そんな金額、すぐに渡せるのですか・・・?」
「確かに額が額なだけに少々難儀する事にはなるでしょう。ですがマルクトの所有するタルタロスを彼らが襲撃した件・・・こちらは百歩譲った上でまだ大義名分が成り立ちます。事を公にしたとしても導師を無理に拐った為に武力行使したと言っても。ですがこの港の件に関しては導師だけでなくルーク殿の身柄まで要求してきた上で、先に港を破壊していきました・・・アッシュが加害者であることに関しては、弁明はまず無理と言える段階です。そんな事柄に対しての対応を誤れば渡すべきはずの金銭以上の損が出ると詠師の皆さんも考えると思いますので、すぐに許可は出ると思います」
「金銭以上の損・・・それってキムラスカから報復が来るということ、ですか?」
「キムラスカとの関係を考えれば報復はまず無いとは思われますが、事はそう単純ではありません。謝罪の意志も無しとなれば、キムラスカのダアトに対する心証は一気に悪化することとなるでしょう。そのようなことが積み重なった場合、もしもの時にキムラスカがダアトを見捨てるという事態も有り得ます。自分達に得をもたらすどころか、害ばかりをもたらす者達の援助など出来ないという形で」
「っ・・・それは、避けねばなりませんね・・・」
そこから金の事について聞くイオンだが、それ以上に心証が大事と語る孔明に複雑そうな表情ながら納得する。



・・・ダアトと言うか、ローレライ教団の運営資金は世界各地からの献金がほとんどを占めている。キムラスカはその中でも金額の面でもだが、国交の面でも特に密な付き合いをしている。そんなキムラスカとの関係が悪化するとなれば、ダアトとしては面白くないとかそう言った話ではない。

無論それはキムラスカからしても同様の事ではあるが、そもそもの原因はダアトの人間なのだ。いくら離れたくないと思った所で関係が悪化した上で交流するメリットが無くなったなら、キムラスカとてダアトとの関係の見直しを図るくらいはするだろう。最悪、それこそ国交断絶も有り得る形でだ。

そうなれば今のダアトにとっては多大な損どころの話ではなく、教団運営に致命的な事になりかねない・・・色々人前で聞こえのいいことを言いはしても、人が作った社会では何をするにしても金という物は必要になるのだ。それが大きな団体となれば尚更である。だからこそ世界を二分する大国の一つからの献金が無くなれば、ダアトの運営が危うくなるのは当然と言えば当然と言えた。



「えぇ、ですから賠償金は支払わなければなりません。謝罪の気持ちも当然ありますが、キムラスカの方々の機嫌を損ねぬ為にも。そして詠師の方々なら私の言うことも理解して用意してはくれるとは思いますが、大詠師がダアトにいたならすんなりと事は進まなかったでしょうね」
「それは・・・モースがいたなら、損害賠償を支払う気はなかっただろうとコーメイは見ているのですか?」
「はい。私の考える限りではおそらくキムラスカからの指摘がなければ、大詠師は損害賠償を払うことについて考えもしないでしょう。そして散々我々に文句を言って払うと決めた所で肝心な部分を我々に丸投げし、自ら事後処理を行おうするとはとても思えません・・・そのような方にいてもらっては、事がうまく進まないのは目に見えていますからね」
「・・・そうでしょうね。あのモースが自分でそう言ったことをするとは思えませんし・・・」
そこから孔明は賠償についてからモースについてと話題を移行し、イオンもその中身に苦々しく納得せざるを得なかった。モースに誠実な対応は無理だろうと思う以外になかった為に。











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