軍師、移動する

「・・・前にディストから私達とは別の方向性においての天才だといったような言葉を向けられましたが、それは私も重々にこれまでの旅で感じました。だからこそなのですが、その目が我々というかマルクトへと敵対という形で向けられた時にどうなるのか・・・あの方が味方でおられるなら構わないと言いたいのですが、そうなった場合に向けて少しでも対策を取りたいと思い揺らしにかかっていたのです。不遜な物言いをする形で」
「・・・成程、貴方が丞相の事をそういった視点から危険視されているということは分かりました。ただそのように言われてはいますが、貴方は丞相の事を掴めているのですか?先程は軽く流されていましたが・・・」
「・・・正直に申し上げますが、結果はついてきてませんね。挑発めいた言葉を送られてもあのように淡々と受け流され、感情を爆発させるどころか不快だと思われているような素振りさえ見せない・・・かといってあれ以上言えばそれこそ国際問題となってもおかしくない案件となりますから、私としてもこれ以上は踏み込めませんからね・・・」
「貴方をしてもそこまでだと言うのですか・・・」
そんな天才だと認めた上でどうにも掴めないと苦い様子で言い切るジェイドに、フリングスも何とも言いがたそうに声を漏らす・・・



「・・・いいんですか、丞相?死霊使いにあぁまで言わせて」
「構いませんよ。あれは私の反応を試すための物ですから、それにわざわざ乗って差し上げる理由はありません」
・・・そんな一方で、孔明と共に残っていたシンクからジェイドの態度が不快だといったような声を漏らされたことに、孔明はその意図など読んでいると正確に言葉にしていた。それこそ気にしていないと微笑みを浮かべる形で。
「それに彼の性格に気性はこの旅で十分に把握しました・・・確かに彼は研究であったり戦いにおいて他には類を見ない才を持ってはいるのでしょう。ですが彼には政治に関われるような才覚は伴われていないと言うか、むしろ政治の舞台にはあの人格は向いてないと言わざるを得ません」
「政治に向いていない、ですか・・・」
「彼の立場が軍人であることに、近しい関係にピオニー陛下がおられることも大いに関係していると思いますが、なまじ中途半端に政治に関わるようでいて関わらないような位置にある事が彼をそうさせた部分もあるのでしょう・・・有り体でいて俗な言い方をするのであれば、政治をなめているんですよ。彼は」
「なめている、ですか・・・」
孔明から出るには違和感はあるが、それまでの説明から統合した上で一言でジェイドの状態を表すそれにシンクは納得したような声を漏らす。なめているとの言葉に。
「確かに平時であれば彼の能力は陛下付きの臣下としても問題はないかもしれませんが、急を擁するような政治の苦難に立ち向かう場合に必要とされる事は冷静であることもそうですが、何より決断を下す意志になります」
「決断の意志、ですか?」
「これは精神論と言うだけではありません。国の行く末を左右する決断をするに辺り、どの選択が正しいかを考えることもそうですが、どれを選択するにしても苦難の道や何らかの代償を払わなければならない・・・そういった決断をせざるを得ない場合も時として存在します。ですがその決断をどうしてもしなければ何もしないとなった時に被害が酷いことになると分かっているのに、自分の評判だったりが傷付かないようにだけしようという考えだったり、時間を空けて他の方が何らかの結論を出すまで待つ・・・などといった安穏とした考えなど求められると思いますか?」
「そんなことは求められないと思いますが、死霊使いはそういった行動を取ると?」
「えぇ、私はそう見ています」
そして決定的にジェイドに足りないものは何かと決断をする意志にあると言った孔明からの説明に、シンクが理解をしたような様子に満足そうに微笑む。









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