軍師、勧誘する

「・・・落ち着いたようですから話を戻しますが、確かに私はそう言った考えを持ってはいます。ですが謡将と私が違うのは切り捨てようとしているか、そうでないかという事です」
「切り捨てる・・・貴方は切り捨てない為にマルセル達を助けたと・・・」
「そうなりますが・・・ここでの事を謡将やモースに言えば、たちまち私達はその地位に命を脅かされることになります。それはマルセルもまた、例外ではないでしょう」
「なっ!?・・・いえ、確かにそうなのかもしれません。モースは元より、閣下もまたマルセル達が実は生きているとなったらただでは済まないでしょう・・・流石に私も、マルセルを二度も死ぬような目になど合わせたくはありません・・・」
「姉さん・・・」
孔明はそこで自身とヴァンの違いについてを言った上でこの場での事を明かした場合を口にすると、リグレットは苦心の想いを滲ませながらそれは出来ないと言いマルセルはそんな姉に悲痛な表情で近付き肩に手を置き顔を向き合わせる。
「姉さん、お願いだ・・・謡将に忠誠を誓うのはやめてほしい・・・」
「マルセル、何を・・・」
「丞相から姉さんが謡将に忠誠を誓っているだろうって事は聞いてる。そして謡将が何をしようとしているかも大体調べがついていてその中身を聞いた・・・預言を覆す為に、世界その物を自分達の手で滅ぼそうとしているって」
「っ!?・・・丞相、貴方は一体どこまで調べているというのですか・・・!?」
「・・・今はマルセルと話をしてください。そしてその選択次第で貴女に全てをお話するか決めます」
「姉さん・・・」
「マ、マルセル・・・」
そして真剣に願うように声をかけるマルセルだがヴァンの目的が筒抜けである事が分かる話の中身にリグレットは孔明の方に視線を向けるが、まずはマルセルに向き合うよう言うばかりか当人がまた真剣な様子を見せる姿にそれ以上追求出来ずに向き合わざるを得なくなる。
「もしそうなれば、俺は謡将達に従ってまで生きるなんて選択だけは絶対にしない・・・例え姉さんが何を言っても、俺は謡将達を止めるために戦いを挑んで死ぬことを選ぶ」
「っ!?・・・何故、とも言えないか・・・考えれば元々お前達を殺しても構わんと言ったのはモースを始めとした者達だが、結果として見捨てることを選んだのは閣下・・・そんな人物に従うなど、お前の立場からすれば無理な話か・・・」
「あぁ、そうだ。そしてその時になれば俺は例え姉さんが相手でも戦う・・・姉さんを止めるためにもだ」
「っ・・・そんな・・・やめてくれ・・・無理だ、マルセル・・・私はお前と戦いたくない、いや戦えない・・・」
マルセルはそのまま自分の意志は揺るがないと姉が相手でも戦う事を宣言すると、リグレットは普段の毅然とした姿など影も形もなく顔を下げて力なく懇願の声を上げる。やめてほしいと・・・だがそれもリグレットの動機からすれば当然の事だった。元々弟想いで弟の敵討ちの為にヴァンに戦いを挑んで敗れたリグレットはその思想に惹かれたが、根底にある物はやはり預言を正しく使わずマルセルが殺されたと預言やその周りの環境を憎んだからに尽きる。そんなリグレットが実は生きていたマルセルと敵対するばかりか最悪自分自身の手で弟を殺さなければならない状況に陥ることなど、耐えれる筈もなかった。
「・・・姉さんが俺の事で憤ってくれた事に関しては嬉しく思ってる。そしてもう預言を快く思っていないということも知っている・・・俺も今となっては預言を信じて行動する事は無理だが、それでも預言の為に自分達以外の全部を壊すなんて事を認めたくない・・・頼む、姉さん。謡将に忠誠を誓うのはやめてくれ、俺は姉さんと敵対したくないんだ」
「・・・マルセル・・・そう言うと言うことは、お前は丞相の元で働くと言うのか・・・?」
「俺だけじゃない、俺と共に死ぬと詠まれていた奴らもいるしその他にも何人も丞相に付いていくと決めた人はいる。ダアトもだけど、謡将のやり方とは違う形を選んだ丞相の元でだ」
「・・・閣下と違う、か・・・」
・・・そしてマルセルもまた、意志は固まっているとは言え戦いたくないという気持ちは持っている。
マルセルが願うように向けた声にリグレットは孔明の配下としてかと問うと、自分だけじゃないと迷わず言った上でやり方が違うと返され考え込むようにうつむく。










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