軍師、納める

「そうなりますが、そういった立場の人物の為大詠師同様、謡将は市長に対して今まで行ってきたことに得てきた知識などは全く明かすような事はしていません。市長もまた大詠師と同じく、預言の保守の為に忠実に動いてくれていると騙されている身になります」
「騙されているとは・・・確か丞相の話ではホドの際に崩落に巻き込まれたとの事だが、その事について全く問題視していなかったというのか?」
「流石にその当時の事について見聞きした訳ではありませんので推測混じりではありますが、現在謡将が謡将としての地位を確立している以上は問題視されなかったと見られていたと思われます。もしくはホドの崩落について事実を明かした時にもう既に肉親である市長達までもを欺いて動こうと決めた謡将の演技により、勝手に謡将なら大丈夫だろうと判断された・・・と言うのが可能性として高いかと思われます。孫もユリアの子孫なのだからホドの事は辛かっただろうが納得したのだと、自分がその仕打ちを受けたわけでもないのにユリアの血族なのだからと勝手に期待してです」
「・・・もしそうだと言うのなら、どれだけその市長はヴァンと言うか自分の孫に対して夢を見てきたというのだ・・・そのような目に合ったならばこそ大丈夫なのかと心身の心配をするのもそうだが、そんな風に考えられるかを疑うのも当然であろうに・・・」
それで市長も事実を知らないと共にヴァンを勝手に大丈夫と判断したという経緯があるだろう事を口にする孔明に、インゴベルトは苦い表情を浮かべるが初めてそう聞いた面々は程度の差はあれ似たような表情になっていた。市長の肉親に対する盲目的でいて怠惰な信頼が、あまりにも人としてずさんだったが為に。
「陛下がそのように思われるのも当然かと思われますが、だからこそまずは謡将の事実に加えてティア=グランツの事を足掛かりにして市長に接触するようにします」
「ティア=グランツのことも、か?」
「・・・キムラスカの重鎮のお二方にこのようなことを申し上げるのは流石に気が引けますが、ティア=グランツの行動は問題視などというような次元の物では無くとも、その動機に関してだけは一応は兄の行動に目的を止めるものという最低限利用出来る物になります。ですので彼女には少しでも贖罪をさせるという意味も含め、少しは役に立っていただきます・・・最も、当人にはその自覚はありませんが」
「・・・分かった。どちらにせよ我々はそちらの行動による結果を待たねばならん身だ。そちらがティア=グランツを使うつもりだと言うなら好きにすればよい。こちらに引き渡すかどうかはともかくとしても最終的にまともな形で裁いてくれると言うならわしとしては異論はないからな」
「・・・ありがとうございます、陛下」
だからこそそう言った市長にヴァンの事を明らかにすると言う孔明だが、ティアの話題を出すことに関しては極めて遺憾そうに口を開いていく。その様子にインゴベルトも仕方無いといったようにそれで行くなら行けばいいとゴーサインを出し、孔明はそっと頭を下げる。本気でティア=グランツの事を申し訳無いと思っていると示すように。









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