軍師、圧倒する

「・・・丞相、それはどういうことだ?」
「これは現在の大詠師に限ったことではないのですが、預言士の習慣の一つとして死が詠まれた預言が詠まれていたなら預言士はその事実を当人には伝えない事が普通となっていました。何故かと言えば死の預言が詠まれていた場合の人々の心が乱れる事を避けるという狙いもありますが、その実の最も大きな狙いは・・・対象の死を知ることにより、それを預言の結果に沿わせるためだなどといってほぼ使い捨てのような形でその人物を使うことにあるのです。最も、これは流石にダアトに所属する者に限った話になりますが」
「コーメイ!黙れ貴様ぁぁぁっ!」
インゴベルトはその言葉を聞き捨てならないと静かに先を促すと孔明はその意味について教団の暗部の考えを明かし、モースはたまらず叫び声を上げる。言うなとばかりの気迫で。
「・・・モースがそこまで激昂するということは、その話は嘘ではないということか」
「っ!?へ、陛下それは違います!わ、私は・・・」
「すみませんがシンク、少し声を抑えさせてください」
「はっ!」
「がっ・・・!」
だがインゴベルトが嘘ではないと察した声に反応してモースは言い訳をしようとするが、孔明の命令にシンクは腕を首筋に当てて体重をかけて首を圧迫して声を抑える。
「・・・話を続けますが、預言により死ぬ人の事を知った預言士は教団の上層部に密かにそれらの事実を伝えていました。年度の初めに預言を詠む習慣を利用し・・・そしてその預言に死を詠まれた人物には詳しい死の中身が詠まれているならその中身に沿わせるようにして、そうでないなら適当な任務を与えて死んでも構わない・・・と言った心持ちで命令を下していったのです。預言が死を詠んでいるのだからと」
「・・・そんなことまで、モースにヴァン達は行っていたというのか・・・」
「預言は世界もそうですが、自身の繁栄も詠まれた物・・・そういった認識を持っている人々が多いからこそ、その真実を伝えないままに利用してきたのです。そして預言に詠まれた事柄を達成すれば自身の繁栄があると信ずるままに死んでいく事を、全く気をかけることもないままに・・・そして大詠師がキムラスカの内に更に食い込んでくるような事になれば・・・」
「・・・ナタリアの事以上の事も起こりうると言うことか・・・」
モースが声を出せなくなった状態から孔明が話を進めてヴァンも含めた暗部がいかなものかを説明し、インゴベルトは公爵共々苦い顔を浮かべる。それこそ何もしなければ今後預言の一言を用いられるだけでキムラスカの全てをモース達に操られるのではないか、という不安を感じる形で。
「事実、ナタリア様の事柄を用いる形で貴殿方を自らの言うことに従わせようとした前科が大詠師にはあります。もしマルクトと戦争をしたとしてキムラスカが勝利したなら、大詠師は自身の手の者をキムラスカの内に潜ませようとしていたでしょう。自分達のおかげ、もっと言うなら預言に詠まれたから勝てたのだと言った上でこれからもいい関係を築くためにも・・・などと言う形で。ですがその実としては言うことを聞かなければ預言を詠めないように預言士を引き上げるなどして、言うことを聞かざるを得ない形で脅しをかけてきたことでしょう」
「・・・その時に我々が従わなければ、我々の立場が危うくなるのは避けられんだろうな・・・預言により戦争を起こしたと言う事実を明らかにされれば預言の為に戦争を起こしたのだろうと言われるのは我々であり、そんな状況で預言が詠まれなくなるとなれば我々のせいだと人々から言われる形で・・・」
更に孔明がいかにキムラスカに入り込んでくるかを話していき、インゴベルトは一層表情を歪ませる。モース達の手が自分の元に入り込むのを止めるのは極めて難しい事になると感じたが為に。









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