軍師、圧倒する

「・・・アニスがあぁやって泣くとはね・・・」
「丞相の言葉が効いたのは確かではありますが、それ以上にタトリン夫妻の親としての体たらくというか無条件の甘えが大きかったからでしょう」
「無条件の甘え?」
その部屋の中でシンクが意外そうに声を漏らすが、ディストの答えにおうむ返しのように口にする。甘えとは何かと。
「要は自分達の愛情に考えは娘に伝わっていると勝手に解釈していた事です。タトリン夫妻については貴方も耳にしたことはあるでしょうし姿を見たことはあるでしょうが、確かに周りの人々から見れば敬虔なローレライ教団の信者であり見紛うことない善人ではあるでしょう・・・ですが彼らのそういった姿勢というのは精神状態と思考回路が完全に確立されてこそ出来ることであって、少なくとも物心のついた頃からの子どもにはいどうぞと出来るような物ではありませんよ。事実アニスも丞相に義理の娘として引き取られる前は夫妻に何度も不満をぶつけていたそうですが、全く取り入れてはくれなかったとのことですからね」
「・・・まぁ貧乏な生活もそうだけど、騙されてるって言われても困ってる人がいるならとか使う人がいるならそっちに渡した方がいいって言うような人物達だしね」
「えぇ。そして夫妻はアニスに自分達のようにあれというか、自分達と同じようになると勝手に考えていた。自分達の娘なのだからと・・・ですが親子という立場があっても思想に思考が寸分違わぬ者など一人もいませんし、気持ちがズレずに一致することなどまず起こり得る事ではない。ですがそういったことを理解せずそうなると勝手に自分達のようになると思い込むからこそ、言葉がおざなりになるんです。丞相のように言葉にして想いを伝えることなどなく、態度で分かるだろうと楽観する形でね」
「成程・・・無条件の甘えってのはそういうことか。だとしたら愚かという他にないよね・・・娘の訴えは聞かないくせに、自分達のやることには娘だし愛情を注いでいるから何も言わずとも付いてきてくれるなんて都合のいいように解釈するなんてね」
「だからこそ、言葉という形になった愛情がアニスにとっては嬉しかったのだと思いますよ・・・実の両親と違い真摯に向き合ってくれた上で苦労も無駄にはさせないようにしてきて、愛情をちゃんと見せてくれた丞相のことが」
そこからいかにタトリン夫妻の取った行動が親として甘えたものだったのか・・・それらを聞いて納得するシンクに、ディストはそっと頭を抱える。タトリン夫妻に対して呆れたといった様子に。
「・・・アニス、もうタトリン夫妻の所に戻らないんじゃない、ですか?」
「本人の意志は確認してはいないが・・・それでも一応の決着はつけようとくらいは考えるだろう。丞相達と一生を共にするのならそうすると伝えるくらいはな。ただやはりというか、夫妻の元には行かない方がいいとはどうしても感じてしまうな・・・今のディストの話を聞けば尚更にな」
「アリエッタもそう思う、です」
その会話を端で聞いていたリグレットとアリエッタは二人で会話をするが、当然のように意見が二人ともに一致した。もうタトリン夫妻の元に帰るべきではないと。









・・・アニスの事に少し話が行ったが、それも後になれば孔明達も関わることであり時間もあったからこそのこと。故に孔明達もリグレット達もその後は落ち着いて時間を取ってゆっくり休み、翌日の朝には万全の状態でルーク達と共に甲板の上に集まった。









.
4/20ページ
スキ