女忍、影に動く

「彼も今までの道中で私がこの団体の実質的な主導者であることは重々承知しているでしょうし、散々私に反論を出来ずに叩き潰されてきた身です。彼からすれば私の事は気に入らないでしょうが、今の彼の立場にこれからキムラスカに行かねばならぬ事を考えれば、どう自分が行動したいかに誰を味方にせねばならぬかくらいは考えるでしょう。その中で自殺願望か謡将と共に裁かれたいといった願望があるのならまだしも、アッシュにはそこまでの気持ち・・・特に謡将が死ぬなら自分も死ぬとまでは言わないのは目に見えています。精々がティアと似たような事を異口同音くらいの違いの言い方で命だけは助けられないかといった程度に言うくらいでしょう」
「まぁそれもあくまで何か発言するならと言った程度でしょうけどね~。アッシュの様子を見る限りだとそこまでして謡将を庇うなんてあの性格もあって余程じゃないとないでしょうし」
「そうなるでしょうが、だからこそ彼は私の元には来ずともどうするべきかとは考えている上で・・・心のどこかで自分の価値という物でどうにかなると思考はせずとも、感じはしているでしょう。その理由は私がキムラスカへの説明の為に彼を必要としているというと感じている事からです」
「それは自分が本当の『ルーク=フォン=ファブレ』という存在だから、ですね?」
「口ではアッシュは否定はするでしょうが、彼は自分が被験者であるという強烈な自負を捨てるどころか手放そうとすらしていません。自分はもう『ルーク=フォン=ファブレ』ではないというなら被験者だとかレプリカだとかにこだわる必要もなく、ルークが『ルーク』と呼ばれることに腹を立てることもないはずなのにです・・・そしてそこを突いてもアッシュの事ですからルークが憎いだけで他の事は一切関係無いといったように弁明するでしょうが、切っても切り離せない物であることを自覚してない彼にはその事を告げたとしても無駄だということもまた理解しています・・・要は彼にとって都合の悪い、もっと言うならば格好のつかない事実は目にも耳にも頭にも届かせたくないんですよ。自分が本物の『ルーク』だという自負があること、謡将により助けられたのは自分という人間に助けられるだけの価値があること、ルークが居場所を奪った当人であり恨みに怒りを向けるべき相手はその一人だけであること、自分はもう吹っ切れていてキムラスカには戻らないし戻れないと思っていること・・・大まかに代表すればこう言った矛盾をはらむ物を含める考えを揺らがすような言葉からです」
「そしてその中にある自分は助けられるだけの価値がある人物だからこそというものがあるから色々考えはしつつも、どこかで自分の為に動いてくれると感じている節があるからアッシュは旦那様の方に来ないって事なんですね?自覚してないとはいえ、身勝手な考えがあると」
「そういうことです」
それで何故アッシュが危機感を持っていないのかを話していき、結論は勝手に自分の価値を孔明が見定めて助けてくれるだろうと思っていることにあると要約されて言われてくのいちも流れを汲んで納得する。が、すぐに肩をすくませ仰々しく呆れたといったように表情を作り両手を肩の辺りまで上げた。
「な~んかそう聞くと本当にルークの方が覚悟出来てますよね~。被験者だからこその驕りがあるって言っても相当酷いとしか言いようがないですよ?」
「えぇ、そう思いますが・・・だからこそ好都合でもあります。私の策を為すには」
そのまま馬鹿だろうと直球のニュアンスで言葉にするくのいちに対し、孔明はだからこそやりやすいとばかりに微笑を浮かべる。アッシュを馬鹿だと暗に肯定するように。









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