軍師と女忍、対峙する

「となれば謡将の兵力はもう残ってはいないのですね。先程捕らえた兵が最後という形で」
「丞相がもうダアトで兵を捕らえてきたならそうなるよ・・・まぁさっき捕まえてきた兵が全部謡将の兵じゃないなんて言ったらまた面倒になったろうけれどね」
「そこは仕方がありませんよ。一つ一つ説明していたらこちらの時間が足りませんでしたからね」
次にディストがヴァンの兵力についてをシンクに問うと、肯定と共に全部がヴァンの兵ではなかった事を言わなかった事を口にする。



・・・実はシンクが言っているよう、ヴァンの側に伏せていたスパイはシンク達だけではない。一般兵の中にもいくらかの割合で孔明の兵は紛れ込んでいた。

そうしていた理由は何故かと言えば、シンク達の手助けをすると共にヴァン達との戦いの際にスムーズに残った兵士達を降参させるためであり、もしも全面対決という流れになっていた場合に伏兵として裏切る算段であった為である。一丸となって戦いになるかと思われた矢先、いきなりの裏切りによる攻撃での動揺に戦力低下を狙うといった目的の為に。

ただそんなことをアッシュ達に言ってしまえばまだそんな策があったのかと愕然としたよう言われるのは間違いないだろうことに加え、余計な策を練りすぎだと自分の腕について自信を持った発言で返しかねなかったからだ。

・・・戦争と呼べるような大規模の戦いを経験してないアッシュとティアは、大将首を取れば戦は速やかに終結するとでも思っているだろう。事実、大将首を取れば戦を終わらせること自体は早く済ませることは出来る。

しかし現実的に見て大将自身もそうだが、周りの兵士もそれを易々と許すはずなどない。ましてや馬や辻馬車を引く竜のような高機動に移動しながら攻撃出来るような乗り物に乗って戦うなど、先程の状況では船で移動してきた孔明達だけでなくアリエッタが裏切る事からヴァン側も不可能な状況であった。

・・・そんな状況で例え数の有利に加えて戦力の質も五分以上でオマケに孔明の指揮となれば負ける方が難しいが、それでも相手が相手なだけに犠牲になる兵士が出るのは避けられない上に今の孔明達にとって兵の損失はまた別に避けたい理由がある。それは・・・



「何はともあれ、これで兵力は十分・・・バチカルで何かが起きたもしもの時に対応していただけそうですね」
それで孔明がこれで準備は大丈夫といったように言うと、くのいち達は揃って頷く。



・・・アッシュ達は気付いていないというか自分がいて行動すれば大丈夫と考えているから全く考えようともしていないが、実の所は兵の数という意味では孔明の兵はそこまで多くはいない。と言うよりそもそも神託の盾全体の兵力は、派閥がどうとか分けずに考えてもキムラスカにマルクトの両国の所有する兵力より遥かに少ないのだ。

そこに加えて言うと、孔明と今行動を共にしている兵の数はマルセル達に半分近く預けている事から必然的に半分ほどしかいない。そんな数の少ない状態を見て、キムラスカに特攻したとして何の策も無しに勝てるか・・・と言われれば、まず誰もが否定を返すであろう。

またそこで更に兵の数が少ないことに加え、明らかにボロボロであったり疲労困憊の兵の姿を見たなら敵の立場からすればその光景はどのように見えるか?・・・まずなめてかかることもそうだが、警戒がなくなる以上に力押しでさっさと倒してしまえばいいと判断する可能性が高くなる。小細工を弄してちまちま戦うなど臆病者が取る手だし、相手が手負いなのに何を恐れる必要があると。

・・・そうなればいかに孔明が策を用いても無事に事を進めることは難しいとしか言いようがない。下手に策を弄されるより単純な力押しを行われることの方が厄介な場合もあるのだ。










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