軍師と女忍、対峙する

「そういうわけで、私は大佐達に話をした上で貴殿方二人には何も言わないようにとお願いしたのです。二人以外は謡将に無理矢理にでも突撃するような理由などないとお見受けしましたからね」
「・・・それで吹き矢を使って、不意を突いて眠らせてと言うわけか・・・随分と古臭い手を使うものだな」
「古臭いとおっしゃいますが、却って手の込んだ準備を必要とするような仰々しい手を使えば謡将とラルゴに悟られる可能性が高くなると見たからですよ。現に不自然に彼らに動いてもらうような事をしてもらっていたらすぐに謡将の知るところになっていたでしょうからね。リグレット達と同様、自分達を裏切るつもりでいると。ですからこそ道中に何もすることはなく、すぐに使える吹き矢を用いるという手段の方が虚を突けたというわけです・・・自分の味方であるシンク達が裏切るわけはないという思い込みを突く形でね」
「・・・そこが分からねぇ。俺もヴァンの性格は知っちゃいるが、自分の信じられない物に関しちゃ信頼なんかまず置かねぇはずだ。なのにどうしてヴァンはみすみすとこの二人を見逃した・・・?」
その二人に訳を説明した孔明にアッシュは負け惜しみと言ったように苦し紛れに古臭い手法と言うが、全く意に介した様子もなくスラスラ返していく姿に何故ヴァンが二人を見逃したのかと話題を反らすように口にする。
「謡将が二人を排除しなかった訳は主に二つあります・・・まず一つは二人がリグレット達が抜けた中で貴重な戦力である事から怪しいと思える行動が無かったことから、下手に自ら戦力を減らすようなことは愚行と断じたであろうこと・・・そしてもう一つは二人なら裏切らないだろうと謡将が考えていただろう事にあります」
「何・・・?」
「貴方が言うように謡将は疑り深く、威厳を見せ誰もを受け入れるような寛容さを見せはしていますが・・・その実は懐に入れる人物という者に対しては、一度信頼したからと心底から疑るような行動に出れません。それは何故かと言えば情が深いといった理由より何より、自分の目に感覚という物を疑う必要はない・・・いえ、疑いたくないといった気持ちから来るものからなんです」
「疑いたくない・・・?」
「自分で自分の失敗を認めるというのは簡単なようでいて、案外と難しい物です。単に不注意でつまずくくらいでしたら笑い話であったりよくあることと認められるでしょうが、事が大きくなり周囲の方々を巻き込むような多大な物になった時の失敗というものはそうはいかなくなる・・・もしそうなったならその事柄を受け入れることに失敗の責任を果たさなければならなくなりますから、余程でなければまず素直には受け入れられません。まずそういった時に大抵の人が陥るだろう事は責任逃れの考えを浮かべることです。自分のせいではないと・・・それ故に謡将はシンク達を疑う気持ちはあれども自分の目を疑いたくないと思うからこそ、戦力を削ることを避けたいという考えも含めてラルゴも含めて強く疑い追及出来なかったんですよ」
「・・・だからヴァンは二人の事を見逃した、と言うことか・・・」
「・・・く、うぅ・・・」
孔明がその理由を戦力的な意味と精神的な理由があると詳しくその中身を語ると、アッシュは何とも言いがたそうな複雑な表情を浮かべながらまだ力が戻りきらずに倒れたままのヴァンを見詰める・・・敵対すると決めたとは言え未だ敬愛の念を捨てきれてない師が、全てを見透かされたと言わんばかりの言葉を向けられて今地に臥しているという状況を改めて認識したために。









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