女忍、主の命を遂行する

「私も実際に一度聞いたことがあります。別に私をこのようにしてわざわざ気にかけてくれるよりは、貴方がダアトを導くように動いていけばいいのではと・・・私としてもモースやヴァンにダアトを任せるより断然いいと思いましたから、そう言った上で私も導師の地位を献上することを提案したんです。無論、モース達の反発があることもそうですが全て終わった後の事も踏まえて・・・ですがそう言うと丞相はさっき言ったように返したんです。ダアトを憂う心を持つ貴方ならばこそ私が上に立って行動するのではなく貴方を支えるべきだと」
「ほう・・・一見聞けば正論や美談にも聞こえるが、それは自分が責任ある立場に立つことを拒否しているようにも思えるな」
「端から聞けばそう思うかもしれませんが、今こうして行動している件に関しては私も責任を少なからず負っている立場ですから自分には罪や責任は何もないとは言いませんが、丞相は失敗したとしても成功したとしてもその責を負う覚悟を持って行動しています。そして導師の地位に関しても自分ではどうにもならないと感じたならそう言ってくれれば後は私が引き受けると、そう言ってくれました」
「・・・成程、ちゃんと導師の事情を鑑みた上で対応はすると言っているのか。だから導師がやる気である今のままなら支えるだけに留める、と・・・」
「ピオニー陛下は丞相と実際に会われた訳ではないので信じがたい部分もあるかもしれません・・・ですが私は私を信じて見守り、教えを授けてくれた丞相を信じています。今はこうして丞相の指揮下の元で動いていますが、いずれは私も丞相に心配などかけることなくダアトの治世に尽力したいと思っています。ですからあくまで今は臨時で丞相が総責任者という立場にいると、そのような認識をお願いします」
「・・・まぁそういうことならこれ以上はこちらから何かを言うのは野暮になるな。俺達はあくまで協力してもらってる立場なんだしな」
イオンはその発言の意味に加えて孔明が自分にどれだけの言葉に温情をかけてもらったのか、その時間を滲ませた上で柔らかい表情を浮かべて語る様子にピオニーは少し何とも言いがたそうにそれでいいと返す。事情を聞けたこと以上に下手にツッコミを入れるのははばかられる空気がある、そうピオニーが感じてしまった為に。
「・・・そのような話を聞いたばかりですが、奥方にお聞きします。丞相は導師をこのまま導師としての地位に置かれるつもりなのですか?」
「「「「っ・・・!」」」」
だがそんな空気を関係無いとばかりにレプリカを上に立たせ続けるつもりかとばかりに暗に問い掛けるジェイドに、場の空気は一気に張り詰めた物に変わった。何故そんな豪速球の直球をぶつけるのかといったように。
「・・・じゃあ逆に聞くけど今の導師はレプリカです、それでも私達は導師を導師として担ぎ上げ続けます・・・って私達が正直に言って、ダアトが混乱するような展開をお望みで?これははいかいいえ、加えて言うなら理由つきで答えてもらえる?」
「それは・・・」
「ピオニー陛下、大佐に命令を下してくださいませんか?・・・どのような意図に自身の考えがあって今の発言をしていたのか、それらを正直に明かすようにと」
「・・・ジェイド、言え。流石に今の発言は俺も擁護出来んし、何のつもりで言ったのか俺も知らねばならん。今の状況で丞相達の機嫌を損ね、危うく伸ばされた手を突き放されかねん所だったのは奥方の態度からお前も分かっただろう。拒否は認めん・・・煙に巻いた言い方で逃れようとするようなことは尚更だ」
「・・・っ!」
だがくのいちが圧迫するような威圧感溢れる笑顔でピオニーまで巻き込んで逆に答えろと言う声を向けてきたことに、ジェイドは息を呑んで苦い顔をした。間違った事を言ったことに今気付いたとばかりに。









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