女忍、前進する

「・・・少し話しすぎたようだな。だが奥方が戻ってくるまでにこれは言っておく・・・人には人の事情があるのは、私達に限ったことではなく誰にも共通したものだ。私は私の事情についてを話しはしたし、あの男と対峙する事に迷いはない。それだけは確かだが、同時にその先を見据えて動いてもいる・・・あの男と似ているようでいて全く違う未来を作らんとしている丞相を支える未来をな。だがアッシュ。お前にそう言った先とも言える未来・・・ヴァンを倒した先に何をするべきか、何をしたいのかという指針はあるか?」
「テメェ・・・何を・・・」
「ヴァンを倒すために離反したことは別に構わん。だがそこから先の世界で何をするのかに、何をしたいのか・・・自分の身分に立場に出来ることを踏まえた上で、出来ることを見据えていなければヴァンを倒したとて、お前に残るものなどタカが知れている。ヴァンを止めれたという充足感など精々しばらく程度にしか心の内になどなく、そこから先目標も何も持たずただ誰とも関わることなく一人で動いた所で自己満足にすらならん・・・明確な目的も何も無ければ、ただ空虚な気持ちになるだけだ。そこに多少ならともかく自己の心の全てが満たされて満足出来るような瞬間など、訪れることなど決してない」
「!!」
「後は自分で考えろ・・・ヴァンをどうにかした後にどうしたいか、どうするべきかをな」
「・・・っ!」
・・・更に容赦なく続けたリグレットの一人になって誰にも関わらないようにしようとした場合の惨めさを語る言葉に、アッシュは盛大に悔しそうな顔を浮かべながらも結局は何も返せずに一層強く歯を噛み締めた。ヴァンを倒した後についてを何も考えていなかったのを突かれたのがあるが、それ以上にリグレットの言葉がいかに考えさせられる物なのかを感じてしまった為に。
「「「・・・」」」
・・・そしてその言葉を端から聞いていたルークとジェイドとガイもまた、何かを各々感じたようで様々な反応を静かに浮かべていた。自分達も人の事を言えないと、そう思ったと言ったという様子で・・・









・・・そんな空気になったことから、場はくのいちがティアを連れてくるまでは誰も迂闊な言葉を口にすることもなく沈黙が場を支配していた。

そこから一先ずティアに話をした上でくのいち達はマルクトの首都であるグランコクマへと向かうべく少し時間をかけて河の向こうへと渡り、辻馬車に乗って当面の目的地であるセントビナーへと向かった。



「・・・なぁ、どうして辻馬車に乗る組み合わせをあんな風にしたんだ?」
「辻馬車に乗ってる間、特に問題を起こしそうにない面々はどんなかな~・・・って考えた結果っす。下手に険悪な空気になって困るのは乗ってるあっしらじゃなく、辻馬車の馭者だからね~。事情を知らない中で喧嘩されても気まずくなるだけだろうし」
「そうなのか・・・」
・・・それで複数走る辻馬車の中の一つで、対面上に座るくのいちにルークは問い掛け一応は納得する。辻馬車のメンバーの振り分け方について。



・・・現在ルーク達が乗っている辻馬車にいるのは二人以外にはアニスとディストの二人の計四人、続いてイオンが乗っているのはリグレットにティアにガイの計四人、そしてもう一つの辻馬車にはアッシュとジェイドの二人という振り分け方になっている。

この分け方に関してルークに言いはしないが、くのいちが一番気にしたのはガイとルークにアッシュを一緒にしない上でアッシュをイタズラに刺激しないようなメンバーにする事だ。

ガイは二人に対して何をするのか分からない為であるが、アッシュに関しては単にルークに言ったよう迷惑をかけないような人選として色々考えて好んで話し掛けに行かないジェイド一人に任せたのである。アッシュと何とも言い難い空気が滲む場にいるようにと言うことを。









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