軍師、後始末をする

「お願いします。ただ流れとして失敗するか成功するかはともかくとしても報告も含めてモースや謡将への体面としてはマルクトとの衝突は避けられないでしょうから、その時は出来るならマルクトの兵士を殺すことは避けてください。二人の命令に表向きは従わねばならないとは言え、後々の事を考えればマルクトとの関係を悪化させるのはよろしくありません」
「・・・それは私も分かってはいますが、アッシュが行動する事を考えるとそれは望めないかと思うのですが・・・」
「アッシュですか・・・」
そんなリグレットに願うように殺害を自重する声を向ける孔明だが、アッシュの名を苦々しく漏らす様子に自身も少し考え込む。
「・・・その辺りは少々難しいかとは思いますが、マルクトとの衝突の際には何かアッシュを出せない言い訳でも見繕った上でラルゴを監視にでもつけ後ろの陣で待機するようにと指示してください。私が言い訳を今の内に用意したとしてもそれが状況的に適応するか分かりませんからね」
「やはりそうなりますか・・・」
「ただ導師との距離が近い所にまで来たならくのいちも貴女方と接触出来るでしょうから、彼女なら何かいい案を出してくれるでしょう・・・私が付いていけるならまだもう少しやりようがあったのでしょうが、すみません・・・」
「いえ、今丞相が動いているという事実はまだ人目についてはならないもの・・・それをどうにかするのが我らの仕事です。気にされないでください」
「・・・ありがとうございます、リグレット」
そして流石の孔明でも状況を見ずに具体的な策は授けられないと謝るのだが、リグレットが微笑を見せて首を横に振った事に頭を下げる。
「・・・とりあえず話はここまでにしておきましょう。まだ話したいことはありますが、導師がいなくなった事が露見して慌てて来た誰かに私と貴女が話をしていた場面を誰かに見られる事は避けなければなりません」
「はっ、そういうことでしたら私は軍に戻ります。では失礼します」
それですぐに空気を切り替え話を終わらせようとする孔明にリグレットも頷き、敬礼をした後に部屋を退出していく。
「・・・私も変わった物ですね、以前と・・・時と場所、それに死を経験すればこそ・・・なのでしょうがね・・・」
そして一人きりになった孔明は過去を思い何とも言い難い複雑な表情で一人呟く、常人が聞けば気に頭の中身を疑うような事を・・・















・・・リグレットが退出してから一時間後、孔明の執務室のドアをノックも無しに乱暴に開け放ちながら誰かが入ってきた。
「コーメイ!」
「・・・どうされたのですか、大詠師?」
「どうしたもこうしたもない!今さっき私の元に導師がいなくなったと報告に来た者がいたから確認しに行ったが、本当にいなくなっていたのだ!」
「・・・それは一大事ですね」
その来訪者とは目下孔明の直属の上司として見られ、預言保守派の筆頭であるモース・・・そんな人物が怒り浸透と狐目を吊り上げ顔を赤くして導師がいなくなったと叫ぶが、孔明は全く焦る様子もなく平淡に対応する。
「何を落ち着いておる!導師がいなくなったのだぞ!」
「大詠師こそ落ち着いてください・・・もし導師が誰かに命を狙われ殺されたとしたなら部屋が荒らされているか血痕であったりアニスの死体など争った形跡があるはずですが、そういった物はありませんでしたか?」
「・・・いや、そういうものは無かったが・・・」
「と言うことは導師もそうですがアニスもまだ生きている可能性は十分に有り得ると言うことです。大方導師の判断で誰かに付いていったというか連れていかれたのでしょう。誰かに連絡する時間も取れずに」
「・・・と言うことは、誰かに導師はさらわれたというのか?」
「はい、私はそう見ています」
「むぅ・・・お前の予想は当たるからな・・・そう聞けば少しは安心出来るな・・・」
モースはその様子を気に入らないとばかりに怒り狂うが、孔明が全く焦らないばかりか根拠を語る様子に気を落ち着ける・・・これはモースが孔明の能力に関して信頼をしているからなのだが、自身に対して孔明が忠誠を誓っていると微塵も疑っていないからこその盲信でもあった。本来トップがいなくなったならいかに孔明とて全く心配しないなど有り得ないのに、孔明の根拠があるなら大丈夫と自分も安心してしまう程の盲信を抱く程に。










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